2019年度 春学期入学式 式辞 

2019年度 春学期入学式 式辞 

ただいま入学を許可された学群生の皆さん、大学院生の皆さん、桜美林大学への入学おめでとうございます。また、これまで皆さんの努力を支えてこられたご家族の皆様にも、心からお祝いを申し上げます。そして母国を離れて本学に入学された多くの留学生の皆さん、その勇気をたたえるとともに、心から歓迎したいと思います。

さて、皆さんにとっては今日が、桜美林大学で学ぶ学生、大学院生としての第一歩になるわけですが、みなさんは今、目的を持っていますか?たぶん、これまでの生活の中でも、「何事にも目的を持って取り組みなさい」と何回も言われてきたことと思いますが、私も皆さんが大学生活を始める今日、この場で、改めて皆さんに聞いておきたい。皆さんは、目的を持っていますか?

目的とは、まだ自分が到達していない何かレベルの高いこと、まだ成し遂げていない何か大きいもの。目的とは、まだ自分が解決できていない問題や課題のこと。目的とは、将来なりたい自分自身のこと。目的とは、いくつかの目標を達成して初めて実現できるゴールのこと。

目的を持つと、それを達成するために自分がやるべきことを考えることにもなるので、自分をつき動かす原動力になります。目的がないと、何をしたらよいかもわかりません。目的を持ちなさいというメッセージは、言い古された格言ではあるものの、人生においてかなり重要なのです。

皆さんはそれぞれ、個性があり、才能があり、異なる環境で生まれ育ち、異なる価値観を持って、今日ここに集まっています。一方で今日ここにいる皆さんに共通しているのは、桜美林大学で学べるという特別な場所と時間とチャンスを手に入れたことです。これらを活かすも無駄にするも、皆さん一人一人が目的を持つかどうかにかかっているのです。個人として大きく成長するためには、また、集団のひとりとして豊かな社会を作り上げていくためには、自分なりの目的が必要なのです。

ではどうすればいいのでしょうか?

私たちが生きる世の中は、まだまだ問題や課題にあふれています。食べ物も十分に与えられず、極度の貧困の中で生活している人々がたくさんいます。教育を受けられない子供や、病気で亡くなる子供もいます。地球温暖化や経済格差も大きな問題です。政治、経済、環境、生命、教育、芸術、テクノロジーなど、大きな枠組みから具体的な物事まで、ありとあらゆるチャレンジがあります。

その意味では、皆さんの世代がこれからできることは、やらなければならないことは、本当にいっぱいあるのです。知識も必要ですし、技術や技能も必要、経験も必要、そして何よりも、できるだけ良い世界になるように取り組もうとする前向きな精神が必要なのです。あらゆる分野で目的を設定して、達成するための手順や目標を定め、個人で、集団で、取り組まなければならないことが、たくさんあるということです。

さあ、改めて聞きますが、皆さんは、どのような目的を持ちますか?

皆さんが目的を持って、実現のために頑張ろうとする時、大学は本当に役に立つふさわしい場所となります。大学には専門分野の異なる先生がたくさんいます。桜美林大学にも専任、非常勤合わせて1000人以上の先生が、授業を担当しています。また、国や文化、民族、価値観が異なる多様な学生が世界から集まっており、学生数も1万人を超えています。外国語で行う授業もあります。さらに、情報端末とインターネットが整備され、かつ、海外の提携校とのプログラムも多数準備されているので、キャンパスの外も、海外も、学びの場として広がっていきます。

大学で様々な学びを積み重ねていくうちに、わからなかったことがわかるようになり、できなかったことができるようになっていくことで、考え方が柔軟になり、行動範囲も広がり、判断力が向上して、だんだんと思考や行動が、自由自在な状態に近くなっていきます。卒業するまでには、かなりの成長を実感できるようになります。知的自由を高いレベルで実現するためには、広く深く学ぶことが必要ですが、個人的な目的を達成するため、また、社会的な目的を達成するために必要な学びを制限なく進めていけるのが大学なので、できるだけ高くて大きな目的を持つ方がいいのです。

そして、最も重要なことは主体的に学ぶということです。これからの時代は、自由に考えることが、もっと必要になってきます。プラトンやアリストテレスなどの紀元前の哲学者たちの頃から、自由に考えることは人間の最も重要な本質として、考えられてきました。アイデアをどのように形として創っていくかについては、ひとつの答えでは収まりません。ひとつの答えを出すと同時に、常に、他の可能性も残すという特徴があります。例えば、「人間が腰掛けられるもの、座れるもの」というのはアイデアですが、その実際の形としての椅子は、数え切れないほどの種類や形があります。「人間が移動できるもの」というひとつのアイデアに対して、馬車や機関車や自動車や飛行機を開発し、様々な形にしてきました。つまり、そこにはいつも、人間の生活や社会を良くするためのアイデアがあって、それが、形やサービス、法律や制度としてつくられてきたのです。

みなさんは、生きる世界の中で、様々な問題や課題を発見し、解決を目指すための目的を設定し、達成するための道筋と目標を立て、そのプロセスの中で生まれるアイデアを形にしていく。これこそがつまり、最近頻繁に耳にする、イノベーションのことなのです。発見や改革のことをイノベーションと言いますが、具体的には、問題解決のためのアイデアを有効な形にすることなのです。

皆さんはどんなアイデアがありますか?どんな形にしたいですか?

芸能の世界で活躍する。技術の世界で活躍する。社会の中で活躍する。ビジネスで活躍する。環境や生命で活躍する。みなさんそれぞれ、思いや情熱があることでしょう。でも、大学での学びは、単に知識や技術を受動的に修得するのではなく、自分なりの目的を達成するために主体的に学ぶこと、自由に考えてアイデアを形にしていくこと、そして、世の中をよくすることにつながる学びであることに重きを置くことを理解してほしいと思います。その向こうに、みなさんの将来の本当の活躍があると信じています。

元号も新たに、平成から令和に変わりました。平成は、東日本大震災に象徴されるように、大自然の力や先端的な科学技術と人間の生活について考え直すことを強いられた時代となりました。新しい令和では、皆さんが中心となって、様々なイノベーションを起こす時代だと思います。

その意味では、桜美林大学は、創立当初からかなりのイノベーションにあふれる学校でした。創立者の清水安三先生が最初に立てた学校は、中国の貧しい子供たちを自立させるための学校でした。1921年のことです。北京に立てられたこの学校は発展して大きくなりましたが、日本が戦争に負けたことにより中国の管理下に置かれ、やむなく清水先生はすべてを手放し、日本に帰国しました。しかし、終戦直後の1946年の5月には、すぐにこの桜美林学園を設置し、日本で学校を再開しました。清水先生はクリスチャンでしたので、キリスト教の教えを教育理念として持っていた人でしたが、フランスの牧師であり教育者であるジャン・フレデリック・オベリンの教育理念を受け継ぎ、また、日本や中国の哲学者や思想家の考え方にも共鳴しながら、常に、先進的な教育を展開する人でした。それは、「学而事人」つまり、学んだことを人や社会のために活かすというモットーに集約されており、人の人生や人間社会を良くすることから逆算して教育を考える伝統が、今日まで受け継がれています。

桜美林が学群制を採用していたり、老年学や大学アドミニストレーション、フライトオペレーション、リベラルアーツなど、他大学ではあまり聞かない分野の教育研究をいち早く展開したりしてきたのも、そのような考え方があるからなのです。言い換えると、学而事人を実践しようとする気持ちは、どこか起業家精神(アントレプレナーシップ)に通じるところがあり、新しくイノベーティブな教育研究を展開させる土壌が桜美林にはあると言うことなのです。

さらに私たちは、学而事人の精神が、最終的には個々人の幸せや充実した人生につながると考えています。他人や社会に尽くすために勉学に励むというのは、個人的な成長欲求からすると、最初は疑問を持つかもしれません。しかし、人に尽くせば尽くすほど、それ以上のものが返ってくることも、実は、真理です。誰かを助け、誰かを支え、また、社会の発展のために尽くすほど、経済的な価値だけではなく、人々からの感謝や、人との自然なつながりという無形の価値も自分に戻ってきます。

学而事人の精神に則って、利他的に思考し行動すれば、結局は自然に、自分のところに様々な価値が集まってきます。そして、みんながそのような考え方で生活し、生きていけば、人を支え、人に支えられる豊かな社会が実現できるということです。学んだことを人のため、社会のために還元することが、自分の幸せや生きがい、平和な社会の実現につながるのだという教えです。

大学は、現存の社会の価値観に迎合できる人間だけを育てる場所ではありません。むしろ、現存の国際社会、グローバルコミュニティが抱える様々な問題や課題を、イノベーションや革新的な行動で新たな価値を創造し、新しい世界を創っていける人間を輩出する場所でもあります。

いつの時代でも、どのような社会でも、創造や変革を行おうとすると、現状に安住している人々から必ず批判や非難を受けるものですが、たとえ誤解を受けたとしても、もし自分が懸命に学び、真理に基づき、新しい社会の創造のために貢献するという強い意志があるのであれば、その真理を信じて前に進み、努力を重ね、あきらめないで実践することが大事なのです。

皆さんには、与えられたこの素晴らしい機会に感謝して、目的を持ち、自由に発想し、主体的に学び、様々な取り組みにチャレンジし、学而事人の精神で世界を変えて欲しいと思います。桜美林はみなさんのホームです。ここから変える、ここから変わるのです。始めること、進めること、そこから形はだんだん見えてきます。まずは、目的を持った一歩を、今日この日から歩み始めてください。

私は新入生の皆さんの一人一人の可能性を信じています。みなさんが桜美林に入学してくれたことを、本当に嬉しく思っています。一人一人を激励したい。そしてきっと、これから長い時間をかけて、皆さんが自分自身の知的自由を獲得し、学而事人を高いレベルで実践し、その道を歩んで行くことを楽しみにしています。

皆さんのこれからの活躍を期待しながら、これをもって式辞といたします。ありがとうございました。 

© HIROAKI H. HATAYAMA 2018