2019年度 秋学期 入学式

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2019年度 秋学期 入学式 式辞

大学、大学院、留学生別科の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。保護者の皆様にもお祝いを申し上げます。特に、留学生の皆さん、言葉の壁を乗り越えてよく頑張りました。皆さんの入学を心から歓迎いたします。

みなさんがこれから桜美林大学の学生として、大学院生として学ぶにあたり、激励の言葉を贈りたいと思います。みなさんが、学びの場として桜美林大学を選んでくれたことを大変嬉しく思います。まずはそのことに感謝し、私自身も学長として皆さんの学びをしっかり支えていけるように、この入学式を通して心を新たにしたいと思います。

さて、みなさんは今日からここで、この大学で、学修や研究を始めるわけですが、その前に、みなさんと一緒に考えてみたいことが2つあります。ひとつは、(1)私たちは今、どのような時代に生きているのかということ、もうひとつは、(2)大学で学ぶとはどういうことか、また、桜美林大学で何をすべきかということです。

現代は、情報通信技術の発達と整備によって、人や物が、時間や空間の制限から開放されて、いろいろな形でつながるようになりました。携帯端末機器の進化もこれを後押し、様々なデジタル・コンテンツやネットワーク・サービスが提供されるようになり、国や地域などのボーダーを越えたネットワークが構築されています。

また、人工知能に関する技術の進化によって、これまで人間が行ってきたことを機械が代行したり、様々な課題や問題を人間の代わりにコンピュータが解決したりすることができるようになりました。質と量、そしてスピードを伴う先端的な人工知能の技術が、私たちの生活や社会のあり方を大きく変えようとしています。

一方で、国家や民族を単位とする政治的、経済的な活動は、新たな問題を抱えるようになっています。これまでの国家の成り立ちは、政治や経済、文化、歴史、宗教などの伝統的な価値観によって構成されているので、インターネットやデジタル・メディア、人工知能などの革新的な技術が創造しようとしている新しい社会に対して、国や民族が葛藤しているようにも思えます。

この大きな変化の中で、2015年の9月、国連本部において、加盟国首脳の参加によるサミットが開催されました。この会議では、世界を平和へと導くために人類が取り組むべき具体的な計画が示されました。それが、SDGs:Sustainable Development Goalsです。日本語では、「持続可能な開発目標」と訳されていますが、要するに、人類や自然、地球や宇宙がこれからも永続的に維持、発展できるための行動計画のことで、17の目標と169の具体的な項目が定められています。

その内容は、貧困、飢餓、健康、福祉、教育、ジェンダー、環境、エネルギー、産業、経済、平等、公正、資源、気候変動などで、それぞれのテーマで多くの目標が設定されています。今では、世界の多くの企業や団体が、SDGsの達成に貢献するという文脈の中で、それぞれの事業を展開することを表明、実行しています。

このように、科学技術の発展や、自然環境の保護、そして、人間社会の繁栄を目指した活動が世界的に、かつ同時に進行している中で、高等教育の中心的な存在である大学もまた、大きな使命や目的を持っています。

総合的な大学のことをユニバーシティと言いますが、もともとユニバースという語は宇宙を意味することから、大学とはひとつの小さな宇宙のようなもので、ありとあらゆる分野や物事(ダイバーシティ)で構成されているという特徴があります。大学で勉強するということは、専門的であれ、総合的であれ、これからの世界を創造していくために、主体的に貢献できる人に成長するということです。そのために、様々なリソースや機会が、大学には揃っているわけです。

みなさんが大学で実りある有意義な生活をおくるためには、この「常に変化を続ける世界」というコンテクストの中に、まずは自分自身を置いてみることが大事だと思います。変化する世界という大きなコンテクストに自分を置いてみて、自分は何をするのか、なぜそうするのか、どのようにするのかをじっくり考えるのです。

その意味では、みなさんは今日、桜美林大学という特別な場所と時間を手に入れました。大学には、1000名を超える教職員が働いていますし、約1万人の学生が、ここで学んでいます。皆さんが参加できるプログラムは、キャンパスの中だけではなく、キャンパスの外にも、海外にも展開されていて、多種多様な学びと成長の機会が準備されています。これから出会う人、利用する施設や設備、成長のための様々な機会、取得できる豊富な情報、強固なネットワークなど、桜美林大学のリソースを最大限活用して、自分の学びの目的や生きがいを見出してほしいと思います。

桜美林大学の創立者である清水安三先生は、プロテスタントの牧師さんでした。今からおよそ100年前に、中国の北京において、当時、災害や貧困にあえぐ子女たちのための学校を創りました。その学校は発展して大きくなりましたが、太平洋戦争で日本が敗戦し、中国政府に接収されてしまいました。しかしその学校は、今でも「チンケイリン」という名前で北京に残っています。校内に入ると、清水安三先生の立派な銅像が建っています。

終戦後、日本に戻った清水先生は、今度は焼け野原になってしまった日本を見て愕然としながらも、再度奮起し、帰国後2ヶ月もしないうちに、新しい学校を始めました。それがこの桜美林です。1946年のことですので、それからもうすでに70年が過ぎています。

貧困にあえいでいた中国の子女たち、そして、戦争に負けて焼け野原で途方にくれている日本の人たち。そこにはいつも、苦難の中にある人たちを助けてこそ、豊かで平和な社会を築けるのだという清水先生の強い思いがありました。そのために、その人たち自身が自分の足で立ち上がり、生きていく力を身につけられることが重要であると考えたのです。清水先生の答えは、学校を創ることでした。教育の力を本当に信じる人だったのです。

清水先生にとっての答えは学校でしたが、みなさんにとって、それは何ですか?芸術ですか?政治ですか?技術ですか?経営ですか?スポーツですか?音楽で癒され、文学で勇気づけられ、医学で助けられ、工学で問題を解決し、人類学で新しい価値を発見し、化学で変化に驚き、数学で認識を新たにするなど、学びは本当にいろいろな恵みをもたらしますが、まだまだ解決されていない課題や、取り組まなければならない問題が、個人レベルで、組織レベルで、社会レベルでたくさんあります。それらは、みなさんによるイノベーションを待っているのです。

まずは、変化する世界の中に自分を置いてみて、いろいろなことについて、問いを持ってください。そして問題や課題が見えてきたら、達成したい目的を持ってください。将来、皆さんの仕事や奉仕によって人々が助けられ、喜び、感謝されることをイメージして、みなさんそれぞれ、自分の答えを見つけてほしいと思います。みなさんの学びがどのようなものであれ、必ず、それを必要としている人が世の中にいるからです。たとえそれが一人であっても、大きな価値があります。

桜美林の教育のモットーは、学而事人です。まなびしこうしてひとにつかえると読み下します。他者のため、社会のために学びなさい、あるいは、学んだ事を、他者のため、社会のために活かしなさいという教えが込められています。

創立者の清水先生にとっての学而事人は、艱難の中にある人々を、その苦しみや困難から解放することでした。自分たちが共生する社会全体の豊かさや平和を実現するため、教育によって人々を助け出したわけです。

みなさんは、みなさん自身の、自分にとっての、自分だけの学而事人を見つけてほしい。自分のミッションを探してください。自分はどのようなことで他者のためになれるのか、どのような価値を創りだし、社会に還元できるのか。そのミッションを、大学生活の中で見つけてほしいと思います。私たち教職員も、皆さんの学びをいろんな形で支えていきたいと思います。

あらためまして、入学おめでとう。みなさんの今後の飛躍と成長を祈念して、私の祝辞といたします。

ご清聴ありがとうございました。


© HIROAKI H. HATAYAMA 2018