桜美林を卒業して教師になった皆さんへ

桜美林を卒業して教師になった皆さんへ

学長 畑山浩昭

 

 教師の仕事は毎日本当に大変ですね。早朝から登校してまずは一日の準備をし、職員朝礼で連絡事項を確認、ホームルームに行って生徒たちの出席や健康状態を確認しながら必要な連絡をすませ、あっという間に授業が始まり、休むまもなく昼食を済ませ、また午後の授業に走る。放課後はクラブ活動の指導があったり、会議があったり。そしてみんなが帰る頃からやっと次の日の授業の準備をしたりして。また、生徒の数だけ保護者がいるので、そちらの対応もしなければなりませんしね。そんな日が毎日、毎日、続いていることでしょう。

 教師の道を選ぶ前は、教科や法律、心理、生徒指導等を中心に勉強されたと思いますが、実際この道に入ってみると、いかに教師としての「人生観」や「哲学」が大事だということに気づかれたのではないでしょうか。知識や技術は自分の専門領域以外であっても、努力次第でいくらでも修得できるのですが、自分の生き方の支柱となる思想や精神は、簡単には獲得できません。日々、様々な出来事に遭遇し、特に苦しいことや悲しいことに出くわすたびに、考え方が変わってしまうからです。理不尽なことがおきると、それまで信じていたことも容易に崩れたりしますよね。強固な信念は、簡単には構築できないのです。

 一方で、生徒たちに対峙する時には、教師としての判断基準が要求されます。教育の様々な場面における善悪や良し悪しというのは、単に、規則や法律だけで決められるものでもなく、また、善良な行動を促すための諺のようなフレーズを繰り返すだけでは、生徒の心にも響きません。仲良くなさい、謙虚でありなさい、正直に言いなさい、自分で考えなさいなどと言う機会があると思いますが、なかなか効果を発揮しませんよね。なぜでしょうか?

 教師から出る言葉に力が宿るのは、その言葉を支える確固たる価値観や信念、人生観を、教師自身が持っているからなのです。クラス担任として懸命に努力しているにも関わらず、クラスが荒れてしまい、まとまらない。隣のクラス担任はベテランで、あまり生徒の面倒をみてなさそうなのに、活気がありまとまっているといった経験はありませんか?規則や倫理観だけを基準とした生徒指導は学級経営ではなかなかうまくいかず、実は秘訣は教師自身が有するエトスなのです。エトスは、確固たる思想や哲学、人生観に基づいた言動によって形になっていきます。「学而事人」のような哲学の意義を心から信じられるような教師になれば、自ずと日々の判断や言動が変わり、そこに生徒たちは魅力を感じるようになるでしょう。これからも皆さんを応援します。そして、更なるご活躍を期待しています。

© HIROAKI H. HATAYAMA 2018