2018年度 秋学期 入学式 式辞
ただいま入学を許可された学群生の皆さん、大学院生の皆さん、桜美林大学への入学おめでとうございます。また、これまで皆さんの努力を支えてこられたご家族の皆様にも、心からお祝いを申し上げます。そして母国を離れて本学に入学された多くの留学生の皆さん、その勇気をたたえるとともに、心から歓迎したいと思います。
皆さんにとっては今日が、桜美林大学で学ぶ学生、大学院生としての第一歩になるわけですので、大学のことや、皆さんに期待することなどについて少しお話しておきたいと思います。皆さんはそれぞれ、これから学びたいことを考えていると思いますが、その前にもう一度、自問自答してほしいことがあります。それは、なぜ自分は、大学で学びたいのかということです。
これまでの時代は、「学生」と「社会人」ということばに象徴されるように、「教育」と「就職」という流れがありました。つまり、まずは小学校、中学校、あるいは高等学校、大学校で教育を受けて、企業や団体に就職するという発想です。就職して社会人になったあとは、学校教育からは遠ざかり、仕事場で、先輩や上司からの指導や必要な研修を受ける形が普通でした。
しかし今は時代が大きく変わりつつあり、教育よりも「学び」という言い方、仕事よりも「キャリア」という概念が中心になっています。ここでいう学びとは、主体的に学ぶことを意味し、キャリアとは、経歴や経験、必要な知識や技術を積み重ねて、仕事において成長することを意味します。つまり、主体性のある人間が、生涯、学びながらキャリアを磨く、つまり、成長していくという一貫的な考えかたに変わってきているのです。
グローバリゼーションがさらに進むことによって、ビジネスや社会構造の基準が著しく変化する中、人口知能と訳されるAI、いろんな物がインターネットでつながるIoT、そして、ビッグデータを利用した新しいサービスの提供など、先進的なテクノロジーが、産業や企業の形態のみならず、人々の生活や社会のあり方にも大きな影響を与えるようになりました。私たちはそれらの変化に対応しながら生きていかなければならないようです。テクノロジーが先導し、大きく変化するグローバル社会の中で、個々人は今、主体的に学び続けながら、自分のキャリアを高めていく生き方に変わってきているといえます。
桜美林大学は創立当初から、この主体的な学びを重視してきました。国際性や多様性、柔軟性に価値を置いてきた大学です。何よりも、学生さん一人ひとりの学びを支援することに力を入れています。深い学びと、幅広い学びをともに実現できる学群制の導入や、修学を支援する学術的なアドバイジング、就職や進学を支援するキャリア・アドバイジング、あるいは目的別の留学プログラムなど、皆さんの学びをいろんな形で実現できるように仕組みを整えてきました。
その意味では今、時代の考え方と、桜美林の教育方針が調和してきていますので、皆さんはちょうどいい時に、桜美林に入学されたと思います。ただ、そのような学びを身のあるものとして実現できるかどうかは、まさしく皆さん一人ひとりの主体性にかかっていますので、自分で自分をつき動かすための強い意志や動機、目的が必要です。そこで、最初の質問に戻りますが、大学とはどんなところなのか、なぜ、大学で学びたいのかを、もういちど、今、ここで、考えてほしいのです。
まず、大学には、教育者や研究者がたくさんいます。桜美林にも、本当にいろんなことを研究している先生がいます。大学では授業が中心ですので、みなさんもこれから数多くの授業を通していろいろと学んでいくわけですが、最も大事なことは、単に授業を受けるだけではなく、自分なりの「問い」や「考え」を持って、授業や先生との対話に挑むことです。というのも、「問いに対して答えを求めること」が、大学の学術の基本だからです。
これは、そんなに難しいことではなく、まずは、「何が」「なぜ」「どのように」という基本的な疑問からはじめればいいのです。授業では、教授と学生の関係になると思いますが、何かのテーマについて学ぶという構図では、大学教授であっても、それを学ぶ人という意味で、学生になります。例えばアインシュタインでさえも、a student of Physics となるのです。だから疑問を持ったら恐れずに、同じ学徒として、先生やクラスメートと対話してください。
私たちは、知らないこと、できないことがたくさんあります。知らないことは、私たちを不安にしますし、できないことも、私たちの行動を制限し、落胆させます。しかし、いろんなことを知ること、いろんなことをできるようになることは、私たちをより自由にし、思考や行動の幅を広げてくれます。したがって、自分が知らないことや、できないことに関する問いをたくさん持つことが、これからの自分自身の自由度を高め、束縛から解放することにつながっていきます。
そのような問いに次々と答えていくことが、自由自在な思考や行動を手に入れるための道となるのです。大学とは多様な学術によって、自由を手に入れる場所なのです。
そしてもうひとつ、大事なことがあります。それは、なぜ、大学で学ぶのかを考えておくことです。大学に来なくても、知識だけであれば、インターネットや市販の書籍などである程度は勉強できるでしょう。大学を出ていなくても成功しているひとも世の中にはいます。なぜわざわざ大学に来るのでしょうか。
桜美林大学には1万人近くの学生と、千人を超える教職員がいます。留学生も常時、700人前後学んでいます。ひとつの小さな国際社会、多文化社会と言ってもいいです。このような特別な環境で学べることが、大学に進学すべきひとつの大きな理由になります。本学でも、異なる文化や価値観、異なる考え方や行動様式が混在するようになっており、その中でお互いを理解し、交流し、学術を修めながら、様々な課題や問題に一緒に取り組めるよう環境が与えられています。このことは、みなさんがこの大学で学ぶ大きなメリットだと考えています。
また、ここでの経験は、皆さんが自分のキャリア形成を考えるための機会を提供してくれます。様々な人々と交流する中で、自分はどのようなキャリアを作りながら、他者や社会に貢献していけるのか。専門的にいくのか、それとも総合的に勉強して組織や団体で活躍する人物になるのか、どのような技術で人の役にたちたいのかなどは、大学生活における交流の中で見つけていくものなのです。
せっかくここで学ぶからには徹底的に大学のことを調べて欲しいと思います。どんな先生がいて、どんな科目を教えていて、どんな制度があって、どんな機会があるかなど、これからの皆さんの学びに関係することを調べてください。また、2021年には百周年を迎えようとする桜美林学園の理念や歴史、そして、受け継がれている伝統についても、ぜひ、学んで欲しい。桜美林の中で、得られる機会を最大限に活用しながら他者と交流し、自分のキャリアの土台を作ってほしいと思います。
大学には校友会というネットワークがあり、今日、本学の学生となった皆さんは、すでにそのメンバーになるわけですが、桜美林学園の卒業生が10万人を超えているので、世界各地に皆さんをこれから支えてくれる先輩たちがいます。学園歌のフレーズにあるように、本学の学生や卒業生のことをオベリンナーと呼びますが、クラブ活動に参加したり、スポーツクラブの試合の応援に行ったり、学園祭や学生主催のイベントに参加したりしながら、人との強いつながりを築いて、だんだんとオベリンナーになってほしいと願っています。
最後にもうひとつ、精神面についてもお話しておきます。懸命に勉強して学術を極めて、その知識や技術、経験を駆使して仕事したり、生活したりしても、失敗したり、うまくいかなかったりすることがあります。そんな時、苦悩にさいなまれ、失望し、挫折することもあるでしょう。また、人間関係がうまくいかなくなり、信頼を失ったりすることもあります。
桜美林大学はキリスト教主義の学校ですので、学術のみならず、精神的な土台作りや倫理的な啓蒙なども重視しています。みなさんもこれからキリスト教関係の授業やチャペルアワーを通して、癒されたり、勇気づけられたり、あるいは戒められたり、新たな気づきがあったりすると思いますが、そのような時間を通して、精神的な土台をしっかり作って、強い人間になってほしいと願っています。
キリスト教主義に基づく教育を受けられることは、本学の強みであり、みなさんがこれから生きていく上での精神的な土台づくりを手伝うことができると信じています。心の中にしっかりとした柱を建てられる人は、困難や苦難の状態にあっても、何回でも立ち上がり、克服できる力を持っています。
みなさんがこれから桜美林で過ごす日々が、有益で、豊かで、尊いものになるように祈り、願いながら、入学に際する私の祝辞といたします。どうもありがとうございました。