草の根プロジェクト2020年度活動報告

 2020年度は、新型コロナウィルスの感染拡大を防ぎながら支援活動を模索し、実践する1年となりました。厚生労働省によれば、一般的な新型コロナウィルスの感染について、「接触感染」と「飛沫感染」の2つが挙げられています。従来の草の根プロジェクトによる対面型のアウトリーチ教育プログラムは、こうした飛沫感染・接触感染を引き起こしやすい活動であったといえます。

 例えば、ワークショップにおいては、学習者がグループごとに実物資料を共有しながらアクティビティに取り組みます。グループ内で互いに実物資料を手に取りながら話し合うため、多くの飛沫が発生します。こうした飛沫に他の学習者が接触したり、飛沫が付着した実物資料を通じた接触感染のリスクは否めません。

コマを回す男の子を手伝う学生スタッフ〜2019年5月に実施した世界の遊びと衣装の出張博物館プログラムにて

 そこで、2020年度はこうしたリスクを避けるため、主に以下のような3つの教育支援活動に取り組みました。

感染予防策を取って行ったアウトリーチ教育プログラム

  • 草の根オンラインワークショッププログラム
     非接触型のアウトリーチ教育プログラムを開発・公開しました。学内外の教育現場からの依頼に応じて計 37 件のワークショップを実施しました。対面型で実践してきたワークショップメニューをもとに、ZOOMを活用し、オンライン上で実施可能なワークショップをクライアントからの依頼に応じて実施しました。
  • 非接触型展示
    草の根プロジェクトの教職員・学生スタッフの感染予防のため、従来行ってきた世界の遊びと衣装の出張博物館プログラムの実施を休止しました。これを代替するものとして、本プロジェクトによる地域貢献活動の紹介と、比較文化をテーマにした視覚的な展示を制作しました。町田市および相模原市の公共施設で開かれたイベント2 件に出展しました。
  • 異文化発見キット貸出プログラム(学内からの依頼限定)
     学内の主に実習系の授業科目からの依頼に対し、実物資料の貸出を8件行いました。貸出に際しては、使用時の手指の消毒・マスクの着用をお願いし、返却後には資料の清拭を行いました。頻繁に使用する実物資料については、予めニスによるコーティングを施し、表面の保護を行いました。
2020年11月に実施したオンラインワークショップに参加した学生の所在地を示す画像
アウトリーチ教育プログラムの詳細な実施履歴はこちら
アウトリーチ教育プログラムクライアント一覧

2021年度以降の計画・展望

 2021年度は、学内外からの依頼で30回以上ワークショップを行う予定です。また、今後もさらに依頼が入るものと思われます。しかし、2021年度においても新型コロナウィルスの感染が終息するまでは、感染のリスクを回避可能な形で依頼に応じた支援を行いつつ、既に開発したオンラインワークショップのブラッシュアップや新たなメニューの開発が活動の一つの軸となります。

 このように、新型コロナウィルスの流行下における対応を継続すると同時に、2021年度は終息後を見据え、より幅広く社会に貢献していく方法について検討し準備を進めていきたいと考えています。そこで、本プロジェクトと関わる多様な主体・人々とのつながり方を振り返り、整理すると下図のようになります。

草の根プロジェクトと社会のつながり「依頼する・体験する・仲間になる」

すると、学内外を問わず、 地域社会における教育関係者から市民に至るまで多様な人々と本プロジェクトとのつながり方を「依頼する・ 体験する・仲間になる」の3つに分類することができます。アウトリーチ教育プログラムは基本的に教育現場からの依頼に応じ、打ち合わせを行いながらそれぞれの要望に応じた計画を作成・実施しています(図内右側)。
 言い換えれば、多くの場合、アウトリーチ教育プログラムの実践は、依頼に対するリアクションを前提にしています。「体験する」人々 (図内左側) は、基本的に草の根プロジェクトとクライントが連携した実践に参加しています。つまり、草の根プロジェクトは、クライア ントを経由することではじめて学習者とつながるのです。

 そこで検討したいのが、地域の児童・保護者等を対象に、豊かな教育リソースを活かした体験的な学びの場を直接的に提供する機会を創出する試みです。
 例えば、町田キャンパス等の大学の施設を会場として、本プロジェクトのワークショップを参加者公募で実施したり、世界の遊びと衣装の出張博物館を開いたりすることで、より直接的な地域貢献の機会とすることが考えられます。
 本プロジェクトは10年以上にわたり、ワークショップという形でヒトやモノのリソースを活用する教育活動を実践してきました。近年は、それらをパッケージメニューとしてよりわかりやすく整理し、提示しています。

ワークショップメニューの事例
世界の多種多様なコマの回し方を考え、実際に回してみるアクティビティ

 これは、既に取り組んできた体験活動やコミュニケーション中心の多様な学びの手法を可視化するものです。メニューは、豊かな教育リソースを活かした教育支援の手法を公開することで、潜在的なクライアントに選択肢を示すことがねらいでした。
 しかし、本プロジェクトが主体となって生涯学習的な学びの場を開くとすれば、ワークショップのパッケージメニューは、他にはないユニークな体験学習のコンテンツとして活用することができるでしょう。

留学生が手順を説明し、子どもたちが作品を完成させるアクティビティ

 ヒト・モノと直接関わることで、文化の多様性や他者との協働について学ぶワークショップや出張博物館プログラムは、感染予防のため直接的な体験活動を制限せざるを得なかった社会において、多くの人々に魅力的な学びの機会となるでしょう。さらに、これを定期的に地域に公開して実施することで、実施に参画する学生スタッフが地域の多様な人々の学びに貢献する機会とすることもできます。

 これは、「仲間になる」(図内下側)の部分に該当します。特に、学生スタッフ向けに、世界の遊びと衣装の出張博物館プログラムを素材とした、新たな課題解決学習的な手法の開発にも取り組みたいと考えています。当面は、新型コロナウィルスの影響から逃れることはできなませんが、感染終息後に向けて、他にも有意義な方策を探り、新たに展開できるよう検討し、準備を進めていきたいと考えています。

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