草の根プロジェクトの理念

 桜美林草の根国際理解教育支援プロジェクト(以下、草の根プロジェクト)は、桜美林大学が1997年から継続している地域貢献のためのアウトリーチ教育プロジェクトです。グローバル化と多文化化が急激に進む今日の世界では、文化や民族的背景を異にする人々と協働・共生していくための人間的能力と資質を育成することが教育上の重要課題となっています。その効果的な推進のためには、未来を担う新しい世代を育てるという大きな責任を分担し合っている大学と小・中・高等学校および社会教育諸団体が、同じ地域社会の中で日常的に相互の連携を強め、協力し合って共通の課題に取り組むことが大切であると、私たちは考えます。そのような取り組みも、早20年を越えました。

 草の根プロジェクトが当初から目指しているのは、桜美林大学が立地する町田/相模原市とその周囲を中心とする地域社会における国際理解や異文化理解のための教育活動および交流活動を、現場の教師や活動家と連携して草の根レベルで支援することです。とくに「草の根」という名を冠しているのは、個々の教師や活動家の国際理解の授業や異文化交流のイベント作りを、フォーマルな管理組織を通さず、単純明快に一対一の関係で直接支援することを基本としているからです。

 その方針は今でも変わりません。私たちにできることは、あくまで現場の教師や活動家が主体的に取り組んでいる教育活動を、同じ協働の仲間として支援し合うことであり、同じ地域の大学として(大学だからこそ)できることを分担して実施することであると考えております。大学が有している豊かな教育リソースを地域社会に公開提供して、地域の教育の内容を豊かにし、その実をさらに高めてもらうことこそが、大学の地域における重要な社会的な貢献であると信じています。

 草の根プロジェクトが提供する国際理解教育のための教育リソースは、ヒト(人)、モノ(物)チエ・ワザ(知恵・技)の三つの領域にわたります。ヒトとは、主に世界各地から本学に学びにやってきた留学生等の多文化的な人間的リソースのことを指します。モノとは、本学の国際的ネットワークを通じて世界各地から収集した様々な民族文化の実物資料のコレクションのことを指します。そして、チエ・ワザとは、国際理解教育や異文化理解・交流活動のために、ヒトやモノを活用するアイデアやノウハウを意味します。これまで多くの実践を積み重ねて蓄積してきたチエ・ワザは、貴重な教育リソースを教育現場で活かす際に重要なカギとなります。

 この3つは、どれもみな「体験」に基づく学びを重視しており、国際理解と多文化共生を目指した人間的能力と資質を育成するための、強力なツールとなります。草の根プロジェクトは、これらの教育リソースを5種類のアウトリーチ教育プログラムの仕組みによって地域社会のために提供します。地域における国際理解教育や異文化交流活動を支援することを通じて、若い世代の異文化リテラシー(異文化を理解し、それと共生できる能力資質)を高め、地域に、そしてまた日本に多文化共生の豊かな文化風土を醸成することが大きな使命だと考えています。私たちは、私たちが持つ教育リソースの効果的な活用を通じて、多くの学校の先生方や社会教育の現場のみなさまと一緒に、新しい時代の国際理解教育と異文化理解・交流の活動に取り組んで行けることを、心より願っております。

故・高橋 順一先生
桜美林大学名誉教授
草の根プロジェクト 前代表(2001年〜2013年度)