神奈川県綾瀬市は、同市内の米軍厚木基地(正式名称:厚木海軍飛行場) と連携し、「あやせっ子日米交流事業」に取り組んでいます。同市在住の小学4~6年生を対象に、基地内小学生と交流する「あやせフレンドシップキッズ」 (以下、キッズ)が募集されます。キッズとなった子どもたちは、夏休み中に実施する交流前学習(以下、キッズ研修)を経て、秋から年度末まで行われる基地内小学生との交流活動に参加します。
桜美林草の根国際理解教育支援プロジェクトは、今年度もキッズ研修講師として依頼を受け、その企画・実施を担当し、同事業を担当するこども未来課のみなさんへ助言・指導させていただいています。 この報告では、夏休み中に実施した3週連続のキッズ研修(8月21日(日)・28日(日)・9月3日(土)各2時間半)についてお伝えします。
キッズがめざす学びのゴール
あやせっ子日米交流事業でキッズたちがめざすこと、それは互いの心に触れる交流をすることです。そこで、そもそも「”交流”とはなんだろう」という問いから活動を出発します。私たちの生きる今日の世界は、人々の交流の積み重ねで成り立っているものといえるでしょう。 異なる人が出会い、さまざまなやりとりが交わされます。そのやりとりには互いの「心」が伴います。そのなかでさまざまな感情や気づきが双方にもたらされ、新しい「知」が生み出されていきます。これが「交流」です。
こうした「交流」を支えるもの。それは「聴く」と「協働」であると私たちは考えています。そして、この2つの力を育むことが今回のキッズたちのゴールでもあります。また、私たちみんなの「多様性」とは何かについても、学習者とともに考えます。出身や国籍、あるいは言語・文化的背景といった枠組みを超えて、人や文化の捉え方を見つめ直すためです。
こうした「聴く」、「協働」を具体的に学ぶために欠かせないのが「コミュニケーション」です。「聞く・話す・読む・書く」といった言語による他者との意思疎通や情報交換のように解釈されがちですが、言語による活動はほんの一部にすぎません。対人コミュニケーションにおいては、情報の受け手側も表情、姿勢、動作によって無意識に感情や思考を表現しているのです。
どう学ぶ?ホンモノから体験を通じて〜少人数だからできた対面で実物資料の活用
子どもたちがこうした人間のコミュニケーションについて学ぶには、体験的な手法が欠かせません。そこで、私たち草の根プロジェクトが長年蓄積してきたチエ・ワザを存分に活かし、キッズたちが学びの主体となって活動を展開し、気づきを見出すような独自のプログラム・デザインによるワークショップ型学習を提供しました。レクチャーだけではなく、さまざまなアクティティビティを通じ、人間のコミュニケーションのしくみをキッズは体験的に学習します。さらに、個人作業ではなく、キッズ同士の協働を促すプログラムデザインとすることで、他者を尊重した表現について学び、理解を深めていきます。
こうした手法は共通しているものの、昨年度は残念ながらzoomを活用したリモート研修となってしまいました。しかし、今年度はひとり1点ずつ実物資料を用意できる少人数であること、そして、十分なソーシャルディスタンスがとれる広さがあり、換気もできる会場であることから、私たちエデュケーター2名が訪問し対面でのワークショップを実施することとしました。
初日はインドネシアのコマ「ガシン」、2日目はトルコのコマ「トパチ」を使いました。「聴く&協働」のエクササイズのリソースとして、また「多様性」の理解のためのアクティビティのリソースとして、これら2つのコマを活用しました。また、体を使ったさまざまなアクティビティで心身の緊張をほぐしつつ、「コミュニケーション」とは何か、どんなことが大切かなどを考えました。
自分の知らないコマの実物を見て、触れて、遊んで、楽しむ。これだけでも、日常生活や学校教育現場では体験できないことであり、十分に価値ある異文化体験です。ただ、それはプロセスであり、本当にめざすねらいはその先にあります。
未知(=異)な人・物・事に出会うと、興味や好奇心を抱きつつも、「知らない、分からない、できない」ことへの不安や恐れを抱き、心理的・物理的に距離を置こうとしてしまうのが人間です。頭では「多様性」を理解していても、いざそのような状況になると、自分本位の見方や考え方での判断をくだしたり、拒絶や回避をしたり、差別的な態度・言動をとってしまうこともあります。しかし、予測不能な状況や困難な環境に遭遇したとき、自分の持っている力やリソース(人・物・知恵)を駆使しながら生きるのも人間です。
このような未知の困難な課題に遭遇したという状況を、2つのコマを使ったアクティビティによってキッズたちの目の前につくり出し、彼らに「聴く&協働」を実践してもらったのです。キッズたちは「みんなでこの未知のコマを何とかして回そう」と共通の目標に夢中になって取り組んでいました。一人ひとりが自分の持つすべての力を総動員して全力でのぞむ「聴く」を知ったキッズたちからは、他者に寄り添って聴こうという意識が強く感じられました。
協働の仲間として学び育つキッズたち
元気いっぱい全身で自分を表現する子、臆さず気さくに仲間に声をかける子、言葉は少なくても仲間をよく見て耳を傾ける子、目配り・気配り上手で周りに働きかける子、粘り強くチャレンジする子。今年度のキッズも市内から集まったいろいろな子どもたちです。3日間のさまざまな活動を重ねるなかで、どの子も自然体の自分で参画し、そんなお互いをありのままに受け止め、仲間として関係性を構築していきました。別々の小学校に通う子どもたちが交流を深め、このプロジェクトの仲間となること。3日間のすべてのプログラムを終えたときのキッズたちの笑顔は、その一番の大きな目標の達成を物語っていたように思います。
コロナ禍の交流〜困難だからこそ「対話」、そこから育つ「聴く&協働」
昨年度のキッズ研修もコンセプトは同じでした。 ただ、キッズたちは職員のみなさんと市役所内に集まって対面で活動し、講師の私たちはオンライン(Zoom)で遠隔でファシリテーションするという、キッズや職員のみなさんにとってはいろいろな困難を伴う学習環境でした。また、キッズと基地内の子どもたちの交流は、実際に行き来して会うことはおろか、リアルタイムでのオンライン交流も残念ながらかないませんでした。
しかし、そのような状況下であったからこそ、キッズたちは「本当の『交流』とは何か」を考え、彼らなりに知恵を絞り、語り合い、協働することができたようです。私たちとの学びをしっかり自分たちのものにしてくれたのです。キッズみんなで助け合いながら、一人ひとりが真心をこめたビデオレターやメッセージポスター、季節のカードなどを作って贈り合う交流を半年間以上重ねました。
キッズの学び育ちから生まれる新しい学び育ち
昨年度の修了キッズのうち、今春6年生となった2名が今年度も参加してくれています。実は、昨年度のキッズ研修は事前・事後すべてオンラインでの実施、基地内小学生とは対面することがかないませんでした。それでも「去年とても楽しかったから」「市内のちがう小学校の子たちとも仲良くなれて嬉しかったから」と今年も応募して来てくれました。
昨年度の修了キッズの様子に注目すると、昨年度のワークショップでの体験や学びが随所に現れていました。ふたりとも、ニューフェイスのキッズたちに寄り添いながら働きかけたり、緊張する雰囲気をやわらげるように元気に挨拶や発言してくれたりしていました。それをきっかけに、新メンバーのキッズみんなも徐々に心を開き、口を開き、体を動かし…。みるみるうちに互いに働きかけあい、みんなで活動へ参画し、自分たちで学びの場を創り上げています。その姿はとても自然体で、マスク越しでも笑顔がこぼれ、教室は活発な空気で満ちていました。 このように、このプロジェクトでの学びがつながり、循環していくことを期待しています。 次回は年度末、本事業の総ふりかえりです。
【参考】綾瀬市役所ホームぺージ:これまでのキッズ研修の様子
第1回8月21日(日)https://www.city.ayase.kanagawa.jp/hp/page000040200/hpg000040176.htm
第2回8月28日(日)https://www.city.ayase.kanagawa.jp/hp/page000040200/hpg000040200.htm
第3回9月3日(土)https://www.city.ayase.kanagawa.jp/hp/page000040300/hpg000040233.htm
2021年度「あやせフレンドシップキッズと厚木基地内の児童で交流を深めました 」(2022年3月10日)https://www.city.ayase.kanagawa.jp/hp/page000039600/hpg000039544.htm
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