桜美林草の根国際理解教育支援プロジェクト 2019年度の振り返り

2020年度が始まりました。草の根国際理解教育支援プロジェクトは活動開始23年目を迎えます。1997年、そのころ日本では21世紀を展望した教育の在り方として国際理解教育が重要な柱のひとつとして掲げられ、「総合的な学習の時間」の導入により本格的に進められようと模索されていました。それから20年、現場では教科横断的(学際的)な課題に取り組む学習活動を通じ、「国際・グローバル・多様・ボーダーレス」化が急激に進む21世紀を生きる力を育む取り組みがなされてきました。この間にはさまざまな出来事がありましたが、いくつもの「これまで経験したことがない困難」に遭遇し、立ち向かってきました。そして、今まさにそのような大変厳しい地球規模の課題とたたかっています。このような状況のなかで教育によって社会を支える私たちの使命を深く考えながら、2019年度のあゆみを振り返りました。

もくじ


2019年度に実施したアウトリーチ教育プログラム

2019年度のアウトリーチ教育プログラムの実施件数は97件となりました(このほか台風19号による影響で1件、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため2件中止となりました)。

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これらの教育活動の参加者(児童・生徒・学生、教職員、保護者等)の合計は10,789名です。アウトリーチ教育プログラムのクライアント・連携協力先は、学外の教育機関・施設等が37箇所、学内ではLA学群、健康福祉学群の計48の科目・クラス、桜美林幼稚園および桜美林中学を含みます。上の図は、2019年度に実施したアウトリーチ教育活動のクライアントと連携協力先を表わしたものです。
5つのアウトリーチ教育プログラムのうち、異文化発見キット貸出プログラムを除いた4つのプログラムには、エデュケーターと共に計24名の本学学生がスタッフとして実施に携わりました。彼らの参加はのべ127回です。また、これらの現場での実践に必要な研修やミーティングは計72回(1回あたり1,2時間)実施しました。

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クライアント・連携協力先
2019年度も多様な現場・学習者に対し、さまざまなかたちのアウトリーチ教育プログラムを実施しました。実物資料や留学生を活用した各種ワークショップは、大学を含む学校教育における授業や、社会教育の現場である生涯学習施設における講座として、年間を通して多くの依頼がありました。その対象者の学年・年齢に注目すると、最年少は小学1年生(6歳)から最年長は大学4年生と、大変幅広い発達段階の学習者に関わったということがわかります。

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また、世界の遊びと衣装の出張博物館プログラムは、いずれの会場においても未就学児からその親・祖父母まで、非常に幼い子どもから高齢者の方まで来場されました。世界の遊びと衣装の出張博物館プログラムは、公民館や児童館、地域社会(自治体)の活動といった社会教育を直接的に支援する方法です。年齢・世代のほかに特筆すべき点は、子どもとその親や祖父母まで親子2・3代で訪れる家庭が大半を占めており、現場では複数の親子が連れ立って来場し、家族間交流が見られました。このように、2019年度は改めて社会と家庭、2つの教育にアプローチするものであるという認識を改めて確認する機会が多くありました。

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5月29日(水)に実施した神奈川県立相原高校総合ビジネス科3年生に対するワークショップにて
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7月11日(木)に実施した相模原市立鶴の台小学校3年生に対するワークショップ
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11月16日(土)に実施した土曜学校世界を知る会ジュニアにて
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2019年5月3日(金)にパルテノン多摩キッズファクトリーで実施した出張博物館にて
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2019年度を振り返って-2つの「初めて」に注目して

他大学に対する教育支援

先に述べたとおり、ワークショップの対象者のなかには大学生が含まれますが、これは本学学生だけではありません。今年度は他大学の学部生を対象としたワークショップで授業科目も支援しました。これは本プロジェクト20数年の活動において初めての実践です。対象は帝京大学教育学部で学校教員を目指すゼミの3・4年生の学生たちです。同ゼミで国際理解教育について考えている過程で、学生たち自身が本プロジェクトを見つけ出し、強く関心を抱いたそうです。

ワークショップでインドネシアの楽器「アンクルン」の合奏に挑戦する帝京大学の学生

彼らは「草の根プロジェクトの教育活動を学習者として体験してみたい。実際にエデュケーターに会っていろいろ話を聞きたい」と担当教官の先生に伝え、授業依頼を受けるに至りました。

実は、このほかにも、今年度はいくつかの国・私立大学の学部生・院生から問合せがありました。各問合せに応じ、メールや対面による情報提供や相談などの学習支援を行いました。彼らがそれぞれ取り組んでいる地域連携・貢献活動のプロジェクトを進めるために、大学の授業や文献などでは得られない体験的な学習を通じ、自分たち自身が成長したいと、彼ら自身の研修企画についての相談や研修講師の依頼などもありました。

このような他大学からの学習相談の事例も、2019年度の振り返りの特記事項としてあげられます。このことを通じ、本プロジェクトの理念・方針、それにもとづく教育・研究活動の実践の積み重ねが、外部の大学教育関係者や学生たちの目に留まり、関心が寄せられるようになったのだと実感しました。


「運営メンバー」としての小中学生の参画

2019年度には、もうひとつ初めての試みがあります。それは11月末に実施した相模原市立富士見子どもセンターでの世界の遊びと衣装の出張博物館です。ここでは、同館の学区の小中学生10数名が本プロジェクトの「運営メンバー」として活動しました。これはこれまでの実践とは少し異なり、挑戦的な試みでした。同館は、市立中央中学校、富士見小学校、中央小学校の3校と隣接しています。そのため、小学生はもちろん、多くの中学生が日常的に利用しています。

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同館は中学生の利用が市内子どもセンターのなかで最も多いそうです。この地区の子どもたちにとって、同館は学校と同じくらい生活の一部であることがうかがえます。また、この3校には外国につながる子どもが非常に多く在籍しており、富士見・中央両小学校には国際教室が設置されています。こうした地域性を活かした国際理解の場を設けたいと、同館よりご相談を受けました。20数年間、地域に根ざし、地域と共に活動してきた本プロジェクトの取り組みを住民の方々より聞いた同館館長が、私たちの知恵と力を貸してほしいと訪ねてきたのです。

「大人たちが用意したものを与えてもらうお客さんのような立場ではなく、小中学生の子どもたちが主体として活動する」にはどうしたらよいだろうか。本プロジェクトの出張博物館がその場・機会となるのではないか。そう考えた時に浮かんだのが、出張博物館の運営にその日だけ受け入れ共に運営に携わってもらうという方法です。本プロジェクトの学生スタッフはアウトリーチ教育プログラムを通じて、地域社会に参加しています。そのとき、人の学びを支援する「学習支援者」という役割を背負い、現場に立っており、そのなかで多様な人々と関わり、学び育ちます。同じように、小中学生の子どもたちにもそのような経験と学びが提供できるのではないかと、私たちは考えました。

中学生も交えた事前準備ミーティング

そこで、中央中学校英語部(部活動)の子どもたちには出張博物館で来場者をサポートするスタッフ役を、富士見小学校国際教室で学ぶ外国につながる子どもたちには各自ふるさとの遊び紹介を担ってもらうこととしました。エデュケーターの一人が年少者日本語教育も専門にしており同校とも縁があったため、直接的な支援ができたためです。どちらも子どもたち自身が主体となって活動に参画するものです。本プロジェクトが小中学生それぞれの発達に応じた役割で出張博物館に参画する計画をたて、このような試みが実現したのです。開催前には2回研修を行い、異年齢・異学年の子どもと学生が「博物館チームメンバー」として「地域のために」と目標・目的を共有しました。特に、子どもたちにとっては、現実的な目標に向かって自身の役割を明確にし、自分なりの参画を考えた研修そのものが、彼らにとって大きな学びの場・機会であったのではないかと考えます。

遊び紹介の看板を作る国際教室の子どもたち
独楽の回し方を小学生に手を取りながら伝える中学生

当日、スタッフ役の中学生は、自分よりも幼い子どもたちにやさしく丁寧に寄り添い、サポートしていました。事前研修での学習・練習がとてもよく発揮され、大きく成長したように感じました。国際教室の小学生は、エデュケーターとともに、ふるさとの伝統的な遊びを一生懸命日本語で伝えました。出身・母語、年齢・学年、日本語の学習暦・習熟度、みんなそれぞれ違い、なかなか思うように進められない難しさがありましたが、上級生が下級生を教えたり、時には注意したりしながら、子どもたちなりに試行錯誤して協働していました。「子どもたちの笑顔が嬉しかった」「自分の遊びを聞いて遊んでくれて嬉しかった」と、地域にむけて発信する側の立場で活動した小中学生はこのような感想がありました。

一方、本プロジェクトの学生たちにとっても新しい課題へのチャレンジとなりました。自分たちだけで開催する通常の出張博物館とは違い、配慮するのは来場者だけではありません。共にチームのメンバーとして活動する小中学生を理解し、彼らにも気を配り、必要なサポートを見極め、彼らにあった働きかけが求められます。このように、発達段階や言語・文化的背景など、あらゆる個々の要素を活かした役割を、子どもも学生も担って協働することで、それぞれ多くの学びがもたらされました。初めての試みであったため、企画・準備段階から開催までのプロセスにおいて多くの課題もありますが、今後の学びづくりの貴重なリソースを得ることができました。

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アウトリーチ教育プログラムの効果

学内外における反応

本プロジェクトでは、アウトリーチ教育プログラムを実施した学外の現場担当者にアンケートを行なっています。このアンケートの中で「本プロジェクトにまた依頼したいと思いますか?」という設問に対し「ぜひ依頼したい」、「どちらでもない」「もう依頼しない」の3つの選択肢から選ぶ項目では、「再度利用したい」という回答が90%を超えました。

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学内からの依頼においては、現在、ワークショップを実施している科目については、最も長い「博物館教育論」では2014年度から続いています。また、LA学群の初年次必修科目である「リベラルアーツセミナー」では、近年依頼が増加し、2019年度には全72クラスのうち36クラスに対してワークショップを実施しました。これは、リベラルアーツ学群の新入生の約半数が経験したことになります。1コマ分のワークショップを受けた14クラスの担当教員へのアンケートでは、全てのクラスから次年度においても本プロジェクトのワークショップを「希望する」という回答を得ています。

大学の授業の場合

しかしながら、アウトリーチ教育プログラムの教育的な効果を数値で表すことは困難です。ただ、学内外の教育現場の担当者や学習者(小学生から大学生まで)の反応によれば、通常の授業では得られない学びが期待できると好評であり、継続的な依頼は現場における評価に基づいたものであると考えられます。ここでは、そうした現場からの反応の一例として「リベラルアーツセミナー」という学内の授業をご紹介します。この科目は、リベラルアーツ学群1年生の必修科目で、約70クラスが開講されます。本プロジェクトではこのうち、担当教員から申し込みのあったクラスを、1コマ100分のワークショップを最大16クラス、0.5コマの50分のワークショップを20クラス程度受け入れています。100分のワークショップでは、本プロジェクトのワークショップの目標である「多様性の理解」や「協働」について体験的に学ことに加えて、実物を活用したアクティビティのプロセスに注目しクラス内の批判的思考に挑戦したり、さらにワークショップ全体を通じてクラス内におけるコミュニケーションを活性化することもねらいとしています。

担当教員むけのアンケートでは、ワークショップにおける学生の相互作用的な関わりがドロップアウトを防いだり、学修を継続していく助けになるのではないか、という反応がありました。実物資料を活用して試行錯誤しながら問題解決に取り組むことによって、学生と学生、学生と教員の間のコミュニケーションを活性化し、信頼関係を構築する一助となっているのではないかと考えられます。

本プロジェクトのワークショップは、多様な現場の要望を入れながら活動内容を計画します。幅広い現場と連携していますが、リベラルアーツセミナーをはじめとした学内の授業におけるワークショップが定着しつつあり、各現場、各科目の内容に即した活動内容になるよう今後も取り組んでまいります。

地域社会とつながる出張博物館

また、学外においては世界の遊び出張博物館プログラム(以下、出張博物館)の会場内で2016年10月から2020年1月までに計18回アンケートを実施しており、その結果を一部紹介します。一般の保護者への出張博物館への再訪に関する質問に対し、回答者のほとんどが前向きに考えているようです(詳細は以下グラフ参照)。

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出張博物館は、本プロジェクトと一般家庭が直接つながる空間です。子どもたちとその保護者が学生や教職員とコミュニケーションをとりながら、刺激的な異文化体験を楽しみ、同時にメディアを通さず直接的に本学を認知することができます。これは、国際的な教養をもった人材の育成を掲げる本学の“ファン“を獲得する手段として、継続・拡大させていきたいと考えています。

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2020年度にむけて

引き続き継続して学内外との連携を深めてアウトリーチ教育プログラムを実施していくことで質的な向上に取り組みます。また、これに加え2020年度からの新たな試みとして、ワークショップや出張博物館において目標とする教育的な効果をSDGs(持続可能な開発目標)と関連づけることで従来の国際理解教育に止まらず、幅広い教育ニーズに対応するものとして位置付けていきます。

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SDGsでは持続可能な世界を実現するため、国連の全加盟国が策定に携わった17の目標が提示されています。これらのゴールは2030年までに誰一人置き去りにすることなく、達成すべきものとされています。いずれも達成は容易なものではなく、そのためには、分野を超えて多様な人々がそれぞれの力を生かしてコラボレーションし、革新的に取り組まなければならなりません。そうしたコラボレーションで求められるのが、本プロジェクトのアウトリーチ教育プログラムにおいて目標としている、多様性の理解や他者と協働することができる能力・資質であると考えています。従来から実施してきた各種ワークショップや出張博物館は、文化の多様性を体験的に理解し、さらに周囲の多様な人々との問題解決について実際に活動しながら学ぶ機会とすることを目指しています。今後はSDGsとアウトリーチ教育プログラムのねらいを接続して位置付けていくことで、より幅広いニーズに応える地域貢献の取り組みとして価値を向上させていくことを目指していきます。

SDGS(持続可能な開発目標)の17の目標
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