【報告】2020年2月6日(木)相模原市立淵野辺小学校で「スーホの白い馬×モンゴル理解」ワークショップを実施しました

一部では再開されたところもありますが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための臨時休校が今もなお多くの学校で続けられています。このような状況ですが、先月、小学校で実施した教育活動のご報告をお届けしています。前回の横浜の小学校につづき、今回は桜美林大学からすぐの相模原市立淵野辺小学校です。 教育によって社会を支えることが私たちの使命です。こんなときだからこそ、歩みを止めずに教育・研究活動に励むことが大切だと考えます。この記事が多くの人に届き、エネルギーの源や学びの種になればと思います。

今年もこの時期がやってきました『スーホの白い馬』

多くの小学校2学年の国語科教科書(光村図書)で扱われている『スーホの白い馬』。モンゴルで語り継がれる大切な民話です。 日本では何十年にも渡って全国の多くの小学校で学習されており、親子2世代、3世代で共有できる国民的な物語といってもよいのではないでしょうか。

さて、「スーホの白い馬×モンゴル理解」ワークショップは、世界の実物体験ワークショップのなかのメニューのひとつで、主に小学2年生のこどもたちを対象に、国語科の物語文教材「スーホの白い馬」の学習の入口として行っています。こどもたちが物語の舞台であるモンゴルについて興味を持ち、物語を読み進めていく足がかりとなるようにということが目的です。物語の理解を助けることに加え、このあと3年生より本格的に始まる国際理解の学習の橋渡しも目指しています。

今回のワークショップの対象は相模原市立淵野辺小学校の2年生(4学級・約120名)のこどもたちです。実は、学級担任のある先生が数年前に別の小学校でこの授業を体験され、淵野辺小に異動されて2年生受け持ったときに「あのときのワークショップをやろう!」とご依頼くださったのです。今回の現場・対象のこどもたちのために最もよい学びづくりをしようと、先生方とともに教室や時間を検討したり、活動のねらいや内容などを綿密に相談しました。この日は、学年4学級を2つにわけ、それぞれ1時間という時間割を組み、計2回・2時間の授業を実施しました。

体験が盛りだくさん!ワークショップ

この「スーホの白い馬×モンゴル理解」ワークショップは、毎年いろいろな小学校で実施しています。基本的な活動内容は以下のとおりです。はじめの導入の活動は全体(今回は2学級)で行います。その後、実物資料の体験活動は4グループで同時進行で行い、ローテーションしてすべて体験します。

  1. 導入:興味・関心・動機づけ 
    • モンゴル語を聴いてみよう(自己紹介、読み聞かせ)
    • モンゴルなるほどクイズ(全員参加型クイズでモンゴル紹介)
  2. 活動:実物体験
    • 馬頭琴「モリンホール」の観察と演奏 
    • 羊のくるぶしの骨「シャガイ」うらない遊び
    • 伝統的な服「デール」・帽子「マルガイ」の試着 
    • 遊牧民の移動式住居「ゲル」の模型の観察
  3. ふりかえり:各学級でオリジナルのワークシート、ふりかえりアンケート

一方、ワークショップでない残りの学級には、別の活動を用意しておきます。活動には本プロジェクトの資料を活用します。各学級で担任の先生が活動を進めてもらいます。こちらの活動も含めて「スーホの白い馬×モンゴル理解」ワークショップをデザインしています。

  • 『スーフと馬頭琴』 アルタンホヤグ・ラブサル (著・絵)、藤公之介(訳) 三省堂、2010年
  • 『翼をもったモリンホールⅡ』アヨーシ・バトエルデネ(馬頭琴)清水せりな(ピアノ)、2006年

『スーフと馬頭琴』 はモンゴル人画家によって描かれた絵本で、少年と馬の心情や物語の情景が読み取れます。教科書の挿絵とはまた違った雰囲気です。朗読と馬頭琴演奏のCDが付いており、馬頭琴のさまざまな音色によって登場人物の心情や場面の様子を豊かに表現しています。馬頭琴の持つ力を感じることで、モンゴルの人々にとって馬や馬頭琴、そしてこの物語がいかに大切で尊いものであるかが理解できます。

「モリンホール」とは、モンゴル語で「馬(モリン)の楽器(ホール)」いう意味です。『翼をもったモリンホールⅡ』は、モンゴルの馬頭琴奏者によって選曲・演奏されたモンゴルの民謡や伝承曲だけでなく、新しい時代の曲や日本の曲も収録されています。馬頭琴が持つ豊かな音色を味わうことができ、目の前に大きな草原が広がることでしょう。馬頭琴誕生の物語とあわせて楽しむことで、馬頭琴がモンゴルでどれほど大事に受け継がれているのか、さらによく理解できると思います。

初めての試み!

今回の「スーホの白い馬×モンゴル理解」ワークショップでは、あることを試みました。草の根プロジェクトのメンバーとして活動しているモンゴル学生とともにワークショップを実施したことです。「そんなの普通では?」と思うかもしれませんが、実はこの時期、モンゴルではお正月(モンゴルの旧正月)で多くのモンゴル学生は1月いっぱいで授業・学期末試験を終えると故郷に帰ってしまうのです。そのため、「スーホの白い馬」に関連した本プロジェクトの活動にモンゴル学生が携わることは難しく、例年エデュケーターだけで企画・実施しています。しかし、今回はたまたま帰国する予定がないモンゴル学生スタッフがおり、彼女の希望と都合があったことで、事前研修(企画・準備・練習)も行ったうえでワークショップの実施が実現しました。

さらに、もうひとつ。それは、かつて本プロジェクトで活躍していたモンゴル・ウランバートル在住の卒業生と、ワークショップ中に生中継でテレビ電話をつないだことです。彼は1年前に卒業・帰国してから学校教育に従事しています。急きょ、授業当日の数日前に相談して「やってみよう!」ということになったのです。この試みも通常であれば、現地の学校教育も授業期間中のため叶わないませんが、日本よりもかなり早い時期にモンゴルでは感染症対策のための休校措置がとられており、その実現に至りました。

*「スーホの白い馬×モンゴル理解」ワークショップは、上記のように、モンゴル人学生がいつも必ず参加するものではありません。また、本プロジェクトではモンゴル人学生の派遣や馬頭琴の出張演奏などは行っておりません。

ワークショップに参加した学生と卒業生の声

こどもたちは、留学生やエデュケーター、そしてモンゴルの卒業生の話に興味津々でした。本物の馬頭琴に目を輝かせ、自分の手で奏でるその音色に耳を傾けていました。そのほかの様々な実物資料の体験も目一杯楽しんでいました。後日、届いたこどもたちのふりかえりアンケートには、そのときの思いや気づきが記されており、学級担任の先生方からも大変好評な言葉をいただきました。

それでは、参加したモンゴルの現役学生と卒業生はどうだったでしょうか。彼らの声を聞いてみましょう。

現役学生の感想「これまで参加した多くの活動とは違い、今回は母国・モンゴルについてでした。いろいろな気づきや自文化理解を得て、とてもいい経験になりました。日本の小学生が授業でモンゴルの「スーホの白い馬」を勉強していることを初めて知りました。物語を楽しんで読んでいる子どもたちを見て、本当にうれしく思いました。これからも子どもたちにいろいろなことを伝えていきたいと思いました」

この学生は、高校を卒業してすぐ昨秋に本学へ入学したばかりですが、9月から本プロジェクトの活動へ参加し、この4カ月いろいろな経験を積んできました。そんな彼女にとって、今の自分を最大限に発揮する機会となったのではないかと思います。また、母国から離れて行うこのような活動だからこそ、自文化再発見がたくさん得られ、新たな学びや今後への活動意欲が沸いてきたのではないでしょうか。

卒業生の感想「草の根を卒業して1年ぶりにワークショップをしました!こんなかたちでまたワークショップに参加できるとは、モンゴルにいても参加できるとは思いませんでした。今回のように通信技術をうまく使いながら、卒業生として教師として、これからも多くの教育活動に関われたらと思います」

後日、あらためて彼と話をしたとき、「もう卒業して1年経つんだ。でも、そんな感じが全然しなかったです。そのくらい以前と変わらず本当に楽しかったです」と語っていました。また、「モンゴルで教えている生徒たち、桜美林大学へ送り出した教え子たちの学習活動として一緒に模索してみるのも面白いね」というような、教師としての目線でも話が盛り上がりました。

本プロジェクトの活動は、学習対象となる児童生徒や学生に学びを届けるものです。同時に、本プロジェクトの学生スタッフもまた学ぶ存在です。在学中も卒業後も、どこにいても、どのような立場にあっても学び育ち続ける人材を後押しできる場・機会なのではないかと、今回の試みを通して強く感じることができました。

【お知らせ&お願い】

今年度『スーホの白い馬』の学習を目的としたお問合せ・ご依頼は、計5件(資料貸出3件、ワークショップ2件)ありました。例年のことですが、残念ながら、すべての学校にお応えすることはできません。理由としては、この単元の学習時期(1月下旬から2月中旬)が各地の小学校で重なること、現場の小学校と本プロジェクトとの間で諸事情の調整ができないことなどがあります。今後『スーホの白い馬』の学習を目的とした我々の各種プログラム(資料貸出、ワークショップ)をご自身の現場で活用できないかとお考えの方には、早い時期よりホームページや利用ガイド(パンフレット)等で情報収集をしていただくことをお勧めいたします!特に、初めてお問合せ(メール・FAX・お電話)くださる場合は、年内秋ごろより余裕を持ってご相談いただけますようお願いいたします。