【コラム】最終回/学而事人と草の根プロジェクト④学生の経験と学び

2019年度をふりかえり、2020年度を迎えるにあたって「学而事人」という視点で草の根国際理解教育支援プロジェクトを見つめ、コラム「学而事人と草の根プロジェクト」をお届けしてきました。シリーズ最終回となる今回のテーマは、「学生の経験と学び」です。スタッフのひとりとして本プロジェクトに参加している学生たちが、学内外でのさまざまな教育活動を通じ、何を学び、どう成長しているかをお届けします。

数字で見る草の根プロジェクトの学生

さて、本題に入る前に、草の根プロジェクトで活動する学生について、簡単にご紹介しておきたいと思います。まず、彼らはある特定の学群、専攻・ゼミの学生ではありません。また、出身国・地域、母語・母文化、また母語以外の言語力なども問いません。彼らはみな、本プロジェクトの理念・方針や学内外の現場で取り組むさまざまなかたちの教育活動などに強く関心を持ち、自らも学び育ちながら「地域社会に参加・貢献したい」「人の学びを支えたい」という思いで活動に携わっています。まさに「学而事人」の精神です。ほかにも各々の動機や目標はあると思いますが、1997年のプロジェクト設立・始動当時より変わらない、草の根プロジェクトに集う学生たちに共通した軸のように感じます。

それでは、どのような学生たちがプロジェクトに参加しているのでしょうか。また、これまでどのくらいの学生が参加してきたのでしょうか。背景については、これまでのコラムのなかでも多少触れることもありましたが、あらためて具体的なデータでお示ししていきます。

所属・出身別の学生スタッフ数

上のグラフでは、アウトリーチ教育プログラムの実践現場に携わった学生を、所属別にカウントしています。これまでに全ての学群から受け入れてきました。

また、留学生別科や短期留学生であるルコネッサンス・ジャパン(以下、RJ)の学生も参加しています。2013〜15年度は、留学生別科(以下、別科)やRJの留学生が友人同士で声を掛け合い、コミュニティごとに大勢で参加していました。その後、2016年度以降は、一人ひとり個別に本プロジェクトを訪ね、活動へ参加する学生が多くなっています。

出身別の学生スタッフ数

このグラフは、学生スタッフの人数を出身別にカウントしたものです。2015年度までは、日本人学生よりも留学生の方が多く参加しています。2016年度以降は概ね一対一の割合となっています。留学生の出身は、中国、ベトナム、モンゴル、韓国、台湾、香港等の東アジアがほとんどを占めています。

このように、所属・出身の両面から見ると、学生スタッフが非常に多様な集団であることが分かります。学群や出身の異なる学生同士が、アウトリーチ教育プログラムの実践を通して、協働しながら地域に貢献し、共に学び合うコミュニティを本プロジェクトのなかで形成しているということができます。

草の根プロジェクトでの経験と学び

それでは、学生たちは草の根プロジェクトでどのような学びを得ているのでしょうか。本プロジェクトでは、一定期間、継続的に学生スタッフとして活動した学生が卒業・帰国する際、彼らにはエッセイを残してもらい、その年度の年報に掲載しています。テーマは「草の根プロジェクトにおける私の経験と学び」です。ここでは、はじめに2018年度の年報に掲載したエッセイから一部を抜粋して、学生の生の声をご紹介いたします。

アウトリーチ教育プログラムの実践に携わるにあたり、学生たちはストレスが全くなく、ただ楽しく活動しているわけではありません。依頼を受けた教育現場に対し、意義ある学びを提供することが前提にあり、そこには真正性が伴います。本プロジェクトの活動は、大学生の実習や練習として実践させていただいているわけではありません。そのため、学生スタッフには「大学生(=自分が学習の主役)」ではなく「学習支援者」として現場に入るよう意識を高め、準備段階から真摯に取り組むことを求めています。そのプロセスにおいては、単に時間や労力をかけるだけでなく、心理的な壁を超え、学生自身がそれぞれの中に新たな能力を見出すようなチャレンジも含まれています。本プロジェクトにおける多様な経験が学生一人ひとりの成長の糧になっていることをお伝えできれば幸いです。

「先輩・ 後輩など関係なく、草の根プロジェクトという同じフィールドにいる学習支援者として意見を言い合える仲間で、とても素晴らしい環境に自分はいるのだと感じました」LA学群・日本

「ミーティングはとても面白い時間です。さらに、自文化を思い出し、ほかの国の文化との違いを再発見することもあります。日本に来るまでは中国の伝統文化など当たり前に思い、私はそれほど自文化を大事にしていませんでした。しかし、草の根プロジェクトでの活動を通じ、いろいろな人たちに自文化を紹介できるように、自文化を調べ、学び、たくさん事前準備をしました。私は母国や母国の文化について、理解を深めることができました」BM学群・中国

「私が草の根プロジェクトで得たものを(中略)ふたつを選び、ここに記します。まず一つ目は、人と人が協力して生きる方法についてのヒントを得たということです。(中略)私が草の根プロジェクト で学んだ国際理解教育は、人間同士が互いの文化を尊重し、『そんな考え方やルールの地域もあるんだ!』と一度受け止めて協力して生きていく。そんな、一人一人を大切に思う心のうえに成り立つものでした。(中略)次のことを考え始めました。それが二つ目の財産です。『誰かのために、自分にできることを模索する』という経験です。誰かの気持ちに応えようと、その場にあるあらゆるものを活かし、他者と力を合わせて取り組むことです」LA学群・日本

「卒業にあたり、改めて大学生活を振り返ってみても、草の根プロジェクトの活動に参加してよかったと思います。参加前は、自分に自信がない部分もありましたが、繰り返しの練習や復習によって改善点や良い点が見えてきました。多くのことを学ぶことができ、自分の中で大きな自信になりました。しかし、こうした成長は自分ひとりの成果ではないと改めて思います。共に活動した留学生・日本人の学生メンバーや指導・支援していただいた先生方。私たちの実施したアウトリー チ教育プログラムに参加してくださった地域の 方々。こうした多くの方々のおかげで、自分の視野が広がり、大きく成長できました。ここで得た経験は、これから先、社会人として働いていく場面でも、自信を持って活かしていけると感じています」LA学群・日本

「草の根プロジェクトでの活動を通して得られた、自分の限られた日本語のせいでうまく伝えられない悔しさも、子どもたちと一緒に遊ぶ嬉しさも、メンバーからのたくさんの励ましも、すべてが私の経験です。こんなにも素敵な経験によって、私は成長しました。今でも草の根プロジェクトに参加したことは、いい体験だったと思っています。そこで私はた くさんのことを学んだし、いろいろな人と出会えたし、思い出もいっぱいできました。草の根プロジェクトで得た経験を活かし、大学卒業後はいい小学校教師になりたいと思います」RJ・台湾

「日々の活動を振り返る積み重ねが、自分の中に大きなものを作ったような気がします。 草の根プロジェクトで活動しなければ、これほど他者を尊敬できなかったかもしれません。ありきたりな言葉ですが、わたしは本当に成長しました。交流によって相手を知り、尊敬することは、これからの人生に一番活かしたいことです」LA学群・日本

 

このように、本プロジェクトにおける活動と、そこで得られたさまざまな経験が非常にインパクトのあるものだったということが、文面からもお分かり頂けるのではないかと思います。ここでご紹介したのはごく一部です。エッセイ集は年報のPDFへアクセスする下記リンクよりご覧いただけます。ぜひ、お時間のある時にご一読ください。

2018年度卒業・帰国学生スタッフ
2017年度卒業・帰国学生スタッフ
2016年度卒業・帰国学生スタッフ
 

「留学生」としてできること

今回、冒頭でご紹介したデータは、2013年度以降のものになりますが、それ以前(1997年〜2012年度)にも多くの学生たちが草の根プロジェクトの活動に参加してきました。プロジェクト設立から今年度まで、のべ2,200名を超える留学生が近隣の地域社会や学校教育現場を訪れ、学びをお届けしてきました(国際学生訪問ワークショッププログラム)。最後に、こうした地域の教育現場に参加した留学生の声をご紹介させてください。

「私は国で社会活動をしていました。留学して日本に来ても社会的な活動をしたいと思っていました。それができてよかったです」RJ・モンゴル

「外国人や留学生とは、『助けてもらう人』『教えてもらう人』人から何かをしてもらう、与えてもらう存在だと、留学するまで思っていました。だから、私も留学生として日本に来たのだから、日本ではそういう存在だと思っていました。でも、自分が留学生としてできる活動をして、『外国人でも、留学生でも、日本のこどもたち、日本の人たち、日本の教育の役に立つこともできる』ということが分かりました。私は考えが変わりました」RJ・韓国

上記2名は全く別の時期の留学生です。二人の言葉から気づかされることがあります。それは「留学(外国人になること)によって諦めなければならないことがある」というような考え方が、一般的にあるのではないかということです。もちろん母国にいたときと同じように、自分が思うように、自身の能力を発揮することは難しいかもしれません。しかし、留学して外国人留学生という新たな自分の側面を手に入れたからこそ、母国ではできない自分にしかできないことがあるはずです。そのことに学生が気づき、活動に参画していくことで、その姿を見た学内外の人々が、外国人に対する考え方を捉え直すかもしれません。そのような変革のチャンスになるのではないでしょうか。ほかにもいくつかご紹介します。

「私は、桜美林大学へ留学するまでは【ある国A】にいい印象を持っていませんでした。その国の人のことも好きではありませんでした。でも、いろいろな国の留学生と一緒に活動して、その考えは変わりました。今では【国A】の【活動の仲間a】さんは親友です」RJ・中国

母国から出て、大きな世界を見て、彼の世界観はガラッと変わりました。他者を捉えるのに、国家としてではなく一人の人間として見つめる思考を獲得しました。本プロジェクトに集った学生たちは「ボーダーレスでグローバルな共同体」です。国際色豊かな桜美林大学へ来たからこそ、そして唯一無二の草の根プロジェクトだからこその学びだと思います。

本学には、留学生のほかにも外国につながる学生が在籍しています。そのような学生のなかにも、これまで本プロジェクトに参加した学生がいます。日本人学生/留学生とは異なるアイデンティティの学生にとっても、本プロジェクトでの経験は大きな学びと育ちにつながるものと教えてくれたことばです。

「自分はブラジルでも日本でも『外国人』。どこへ行っても、いつも私は外国人でした。『自分はいったい何者なんだろう。中途半端な人間だ』ずっとそう思って生きてきました。この活動はやりたくて参加してみたけれど、実際、私には何もできない。ブラジルのことも日本のことも、特別なことや伝統的なことができるわけではない。そう思っていました。でも、『私のことをありのまま伝えることで、人の役に立てるんだ。私だからできることがあるんだ』と気づきました」LA学群・日系ブラジル3世

国・地域、言語も違えば、考え方や行動もそれぞれの母文化に根ざしており、実に多様です。さらに、それぞれの人間力もあります。異なる個の集団となって活動する留学生たちは、活動を通して大きく変容します。そして、その経験と学びをふりかえり、それをしっかりと言葉で表わし、多くのことを残してくれました。これらの気づきや変容は、留学生をはじめ外国につながりがあるからこその気づきかもしれません。しかし、一人の人間としての考え方やアイデンティティに大きくつながるようなものであると、捉えることもできます。本プロジェクトでの経験から、このような考えを持った学生が本学から巣立っていくことは、今日の私たちの課題「持続可能な社会」を支える人材の育成に貢献しているといってもよいのではないでしょうか。

おわりに

ここまで「学而事人と草の根プロジェクト」をテーマに4回にわたって本プロジェクトにおける学生の活動と学びについてご紹介してきました。本プロジェクトでは多様な学生スタッフが、アウトリーチ教育プログラムの実践に参画することによって、社会に貢献しています。さらに、そのプロセスを通じて学び・成長していることがお分かり頂けると思います。

アウトリーチ教育プログラムは、本プロジェクトが学内外のさまざまな教育現場より直接依頼を受け、それに応じて企画・実施しています。そのなかで、これまでご紹介してきたように、学生たちは自分自身が教育リソースとなり、活動を大きく支えています。意欲を持った学生もアウトリーチ活動に巻き込み、彼らをエンパワメントすることもまた、草の根プロジェクトの重要な役割であると考えています。本プロジェクトをプラットフォームとして、学生スタッフが社会貢献に取り組み、互いに刺激し合い、学び合う共同体を形成することを我々エデュケーターは目指しています。そして、本学における学生生活の大きな「点」となり、学生スタッフ一人ひとりが展開していくキャリアのさまざまな側面と繋がり、支えていくことを期待しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です