前回は学内における教育支援活動をご紹介しました。今回は学外からの依頼に応じて実施した草の根オンラインワークショッププログラムについてご報告いたします。
学外における教育支援
2021年度になり、学校教育や社会教育のみなさんからアウトリーチ教育プログラムへのお問合せやご依頼が寄せられるようになってきました。7月に小学校と放課後こども教室の現場でそれぞれワークショップを実施しました。いずれもオンライン会議システム(Zoom)を活用したワークショップです。遠隔で活動の場を共にすることができない環境下にあっても、「すべての子どもが学びの主役として平等に参加・体験する」ことを、私たち草の根プロジェクトは第一に考え学びづくりをしています。
2021年7月1日(木)町田市立忠生小学校 -オンライン国際学生訪問授業ワークショップ(対象:4学年2学級および特別支援学級 児童計64名、学級担任ほか)
本プロジェクト・エデュケーター2名と学群留学生3名(LA学群在籍、中国・香港・モンゴル出身、日本在住)で実施しました。
同校4学年を対象にした留学生との国際理解教育は、もう10数年にわたって継続して実施してきました。昨年度は残念ながら実施することができませんでしたが、今年度は同校にオンラインでの活動ができる環境が整ったということで、ワークショップが実現しました。
文化とは、国や人種・民族といった大きな集団の、伝統的で長い歴史のある特別なもの・ことに限らない、私たちの身近な生活(家庭や学校)にあふれています。このような身近な文化への気づきが、子どもたちが文化や私たち人間の多様性について考えるきっかけや出発点となる。このことを目指し、私たちは年齢・発達段階に応じた内容や方法で子どもたちに伝えます。
オンラインでの実施となった今回のワークショップでも、子どもたちがわくわく興味をもって理解することができるよう、子どもたちの身近な日常生活や小学校文化に注目したトピックをとりあげ、全員参加型のクイズにして留学生と共に伝えました。
このクイズは、留学生の母国=外国の文化を知るものですが、もうひとつ大きな教育的意図があります。それは、子どもたち一人ひとりが学びの主役として参加できること、それぞれが自分の考えを持って表明することです。私たちはこれらのことを大事にし、子どもたちにも伝えています。このアクティビティは、この大事なねらいを形にしたものです。それぞれの「私の考え」を見える化し、自己・他者・相互の理解と尊重を促しています。
2021年7月5日(月)川崎市立藤崎小学校わくわくプラザ – オンライン実物体験ワークショップ(対象:3学年児童を中心に約20名参加、ほか職員3名)
本プロジェクト・エデュケーター2名と学群生5名(LA学群3名・芸術文化学群2名、日本在住・日本人学生)で実施しました。
多様な言語・文化の人々からなる川崎市。「学校だけでなく社会教育の現場においても共生の学習/教育に取り組むことが課題なんです」本学リベラルアーツ学群卒業生から相談を受け、今回の活動を企画・実施しました。
文化とは、国や人種・民族といった大きなくくりによるものでなく、私たちの身近な生活(家庭や学校)のなかにあふれていること、そして、その多様性について楽しく学びました。 小学校低学年の子どもたちでも興味を持って、多様性の理解への一歩となるよう、日本国内・首都圏地域の学校文化を題材にしたクイズを用いました。
また、すごろく遊びを通じた文化の多様性に触れ、さらにインド発祥のすごろく「へびとはしご」のオリジナル盤の工作活動を組み込み、子どもたちの興味を広げるワークショップを行いました。※わくわくプラザとは財団法人川崎市民活動センターの青少年健全育成事業
対面以上に重要な意味をもつ表情・声・体の動き
従来のようなリアルな対面型とは違い、やりとりがテンポよく弾んで進むことばかりではありません。しかし、それでも私たちは子どもたちへの問いかけや声かけは、ふんだんに粘り強く行います。そのため、私たちの声がしっかりとダイレクトに子どもたちに届くようにする必要があります。そこで、現場では、スピーカーを設置するなどして音響面での工夫や努力もお願いしています。
逆に、子どもたちから自然にこぼれるあいずちやつぶやき、うなづきやちょっとした身体の動きなどを、私たちができるだけ逃さないようにしたいとも考えています。そのため、現場の教職員のみなさんには、タブレット型の端末やスマートフォンなども併用していただいています。教室を巡回して、子どもたちの声や顔の表情などをとらえていただくのです。
このように、オンラインでのワークショップでは、子どもたちにとって実りある体験と学びが実現できるよう、ご依頼いただいた現場の担当者・関係者のみなさんのお力もお借りし、協力しながらワークショップを実施しています。現場によっては、このようなオンラインのコミュニケーションツールの使用そのものが初めてで、機器・機材の導入から始まり、その使い方や環境整備をひとつひとつ学びながら、ワークショップ本番を迎えるといったところも少なくありません。大変なご苦労やご負担をおかけしていることを、活動するたびに痛感します。
より深い連携が求められるオンラインワークショップ
コロナ禍以前のワークショップとは大きく変わったことがあります。それは、ご依頼いただく現場のみなさんの学びづくりへの参画です。この点から考えると、私たちが現場を訪問してワークショップを実施していたころと比較し、明らかに現場のみなさんとの対話や連携の意識が高まったように感じられます。以前であれば、問合せ・依頼時にある程度の打合せができてしまえば、現場のみなさんはワークショップ当日に最低限の会場準備をして私たちを迎えればよく、実施中は活動の様子を見守ってくださっていたように思います。しかし、現在のオンラインワークショップにおいては、先述のような役割を担っていただく状況は必然的です。そして、現場のみなさんが実施者ではないものの、以前よりも主体的によりよい学習環境を考えられ、試行錯誤してくださるようになりました。
人・もの・ことが瞬時に世界規模で行き交う高度情報社会です。グローバル社会における科学技術は、いまだかつてないめざましい速さで進歩を続けています。さまざまな議論、不安や不満はありますが、今般のワクチン開発の速さは、人類史上で最速であるそうです。人間の学びの尊さと底知れぬパワーを改めて感じます。しかし、地球の長い長い歴史からすれば、私たち人類の歴史などほんのわずかなものです。人間が手に入れ、受け継いできた知識や技術、数々の経験をもってしても、通用しがたい多くの未知で、この世界はあふれています。いつまた今般のような世界規模の大きな困難に遭遇するかわかりません。そんなとき、地球上のどこのだれもが取り残されることなく、みんなで共に生きぬき、よりよい人間社会を維持していけるような力が必要です。その力とは、対話と協働です。今、私たちはまさに、対話と協働が求められているのだと思います。