【報告】2019年12月6日(金)「年少者日本語教育」でワークショップを実施しました

記事の公開ががすっかり遅くなってしまいましたが、昨年末12月6日(金) 本学リベラルアーツ学群の「年少者日本語教育」(川田麻記先生)で実施した、世界の実物体験ワークショッププログラムについてご報告します。このクラスは、日本語を母語としない主に学齢期のこどもたちのための日本語教育について学ぶ日本語教育専攻の講義科目です。 秋学期のみ開講の同科目でのワークショップは3回目となりました。今年は履修生30名と、この3年間で最も学生が多く、さらにその背景も多様でした。日本の家庭・学校教育で育ってきたいわゆる日本人学生、学齢期に来日して日本の学校に就学した外国につながる学生、本学正規留学生や交換留学生として学んでいる外国の学生が共に学ぶクラスです。 ワークショップとは、こうした多様性に富んだ学生たちが異なる背景を活かしながら参加し、学びの主体として共に学習することができる学習方法です。

ワークショップのねらい・内容

今回「年少者日本語教育」のクラスで実施したワークショップは、以下の2点をねらいとしました。

  1. ワークショップのなかで自らが体験した実物を活用したアクティビティについて、活動と言語に注目し、発達・学習の観点から分析する。
  2. 自分が日本語教育人材(例:小中高校教職員・母語協力者・地域のスタッフなど)として、対象となる年齢や学年などの発達段階、日本語学習歴・習得度合いなど背景・実態を各自で想定した場合、そのこどもに、教育現場で今回体験したアクティビティを実施するとしたら、どのように働きかけるか、ファシリテーション・デザインしてみる。
アクティビティを始める前のイントロダクション

まずは、草の根プロジェクト・オリジナルのワークショップ(学習者主体の参加・体験型学習活動)を純粋に体験してみます。今回のワークショップは、①イントロダクション②アイスブレイク・アクティビティ③メイン・アクティビティ(実物資料を活用した活動2つ)④ふりかえりで構成しました。アイスブレイクとメインのアクティビティはグループ単位で取り組むものです。このようなワークショップ体験を通じ、実物を活用する意図やその効果は何かということを、成長・発達過程にあるこどもの言語習得や認知発達の面から考えます。

このような学習目標の達成にむけ、今回はある試みにチャレンジしてみました。それは、2つのメイン・アクティビティに取り組む際、学生たちは体験者と観察者、両方の立場・役割を果たすということです。グループをさらに2班に分けて活動します。一方の班が体験者としてアクティビティに取り組み、もう一方の班が観察者として仲間の体験を近くで観察します。観察者は体験者の様子や気づいたことをメモしたり、その後の振り返りの材料として動画撮影します。こうした観察こそ、今回のワークショップの最大のチャレンジです。

コマの回し方を伝えるグループとすぐ近くで観察するグループ

次に、メイン・アクティビティについて、各グループで振り返ります。これは教師による解説によって、授業をまとめて終えるような方法ではありません。体験者/観察者それぞれの立場でアクティビティを体験した学生たちは、それぞれが抱いた感想、活動中の感情体験や気づきなどを自由に述べ合って共有します。つまり、この振り返りのグループワーク自体も重要な活動として位置づけているのです。

そして、体験と振り返りを経たうえで、実際に自分自身がこのような学びづくりの場面に日本語教育人材として参画するとしたら、どんな働きかけ(ファシリテーション)が有効であるかを考えていきます。これは、今回のワークショップを土台にした発展学習です。学生たちにとっては、自らが学習主体となって取り組む「想像+創造」のワークといえるのではないでしょうか。

観察するグループはメモを取るだけでなく、スマートフォンで動画を撮影して記録し振り返りの材料として活用しました

このような大学の専門科目に関わるワークショップをするにあたり、担当の先生とはたくさんの打合せを重ねます。今回の体験者/観察者として学生が活動するというチャレンジも、担当の先生と練りに練ったプログラムです。学内授業であっても、学習対象者となる学生たちの背景やクラスの実態、その授業科目のねらいや学習内容などを、草の根プロジェクトではできる限り理解を深め、科目それぞれにあったアプローチを考え、ワークショップデザインに努めています。

こどもの多様化が進む日本の教育現場と異文化間能力

現在、日本国内の公立学校には、第二言語としての日本語(「国語」ではなく)の指導が必要とされる児童生徒が51,126名います(2020年1月10日 文部科学省発表)。この数字には、外国籍のこども(40,755名)に加え、1万人以上の日本国籍のこどもも含まれています。ただし、これは公立学校に就学しているこどもたちで、さらに現場の教職員によって「日本語指導が必要だ」と判断されたこどもたちだけです。このことから、日本語指導が必要なこどもは、実際にはもっと多いことが推測されます。また、文科省が初めて行った全国調査によると、日本国内に暮らす外国籍の学齢期のこども19,654名が、不就学の可能性があるという結果も出ています(2019年9月)。このような実態から、いかに日本の多様化が進んでいるのかが感じ取れるのではないでしょうか。また、こどもたちの背景の多様化・複雑化とともに、教育(学習支援)の多様性が求めれれていることが理解できると思います。

草の根プロジェクトがめざす「国際理解/異文化理解」また「多文化共生」のための教育。それは、「異文化間能力」の育成です。 絶えず進み続けるグローバル化により、さまざまな集団・組織、地域社会はそれぞれ多様な人々から構成されています。学校教育の現場もひとつの集団で、それを形成するこどもも教職員も非常に多様です。「私にとっては『あたり前』のこと。でも、あの子にとっては、あの先生・支援者にとっては、もしかしたら・・・」と、自文化中心の思考や態度になっていないだろうか。「○○人だから・・・だ」と国・地域でくくり、ステレオタイプな捉え方や思い込み・決めつけをしていないだろうか。そんなふうにして、私たちは常に自身を振り返り、共に試行錯誤しながら生活することが求められます。このような自己省察と自己調整のうえに行われる対話と協働に必要なのが異文化間能力です。

教育現場で指導・支援の側の役割を担っていると、その教育目標の達成や教育課題(例えば、こどもの日本語習得とそのための指導・支援)に一生懸命になるあまり、知らぬ間に自己省察が十分でなくなってしまったり、他者に耳を傾けたりできなくなってしまいます。今回のワークショップでも、学生たちは本気でアクティビティを楽しみ、真剣に取り組んでいました。それは、こどもたちへの指導・支援を心に留めていたからこそでしょう。しかし、自分で、みんなでじっくり振り返り、分析・検証していくと、学生たちはたくさんの気づきを得ていました。自文化中心的な発想であった自分、聴いているつもりだったけど「聞く」にとどまっていた自分、言語習得ばかりに意識が向いていた自分。冒頭に紹介した授業科目としての学習目標とは別の、しかしながら、基本的であり最も重要な土台の部分の学習がもたらされたように思います。

ひとりひとりが互いに耳を傾け、対話と協働を試みる力が私たちに求められています。他者のどんな声(ことばにならないような心の声、表情や振る舞いなど)も注意深く聴くこと、そのなかで自身の無意識のあたり前=自文化に気づくこと、そのうえでこどもたちの学びの中で対話と協働を促す働きかけをすること。そのようなことに、ワークショップでの実体験を通じて、今回の学生たちも気づいてくれたようです

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