2019年10月19日(土)と11月16日(土)に武蔵野市の武蔵野プレイスで異文化協働体験ワークショッププログラムを実施しました。これは、(公財)武蔵野生涯学習事業団からの依頼により「武蔵野市土曜学校」の低学年向け講座として実施したもので、今年で17回目となりました。
「武蔵野市土曜学校」は学校週休2日制のスタートをきっかけに、2003年より始まりました。これは休日となった土曜日に、市内在住・在学の児童生徒へ多種多様な体験型講座を提供することを目的としたものです。近隣の大学やさまざまな分野の団体がそれぞれの専門分野や特色を活かし、講師となって講座を実施しています。
本プロジェクトは、低学年対象の国際理解を目的とした講座「世界を知る会ジュニア」を継続して開講してきました。17年間にわたる実践を通じ、本プロジェクトも数多くの試行錯誤を重ねてきました。ここで得た経験は、知的リソース「チエ・ワザ」として他の現場でも大いに活かされることとなりました。「土曜学校:世界を知る会ジュニア」は、武蔵野市の子どもたちの学びに貢献するとともに、本プロジェクトにとってもチエ・ワザを磨く場でもあるといえるかもしれません。
今年も2回、小学1〜3年生(各28名定員)を対象にワークショップを行いました。ここ数年は、定員を越える申し込みが続いており、受講者は抽選によって選ばれています(1回目の10月19日の倍率はなんと2倍以上!)。
本プロジェクトが世界を知る会ジュニアで実施するのは、ヒト・モノを同時に活用する「異文化協働体験ワークショップ・プログラム」です。このプログラムは、子どもたちが留学生と出会い、互いにさまざまなアクティビティを通してコミュニケーションを重ねながら、実物資料(世界の遊び道具)を活用した課題解決に取り組む学習活動を実施するものです。
10月19日(土)には留学生5名と日本人学生3名、11月16日(土)には留学生4名と日本人学生3名が、それぞれエデュケーターとともに武蔵野プレイスでワークショップを実施しました。ワークショップを開催するにあたり、参加する学生たちはそれぞれ、ワークショップのねらいや自分が担う役割などを理解し、必要なスキルを習得・向上させるために、ミーティングによる合同練習や自主練習に取り組みます。今回のワークショップ2回いずれも1カ月以上前より活動プログラムをエデュケーターと検討し、たくさんの準備・練習を重ね、本番を迎えました。
イントロダクション/ワークショップのねらい
はじめに、小さな子どもたちにも理解できるよう、分かりやすく工夫してワークショップのねらいを伝えます。本プロジェクトが行う国際理解を目的としたワークショップは、外国に関する知識を伝える場ではありません。ICTが発達した現在、日常生活において容易に情報を得られるようになりました。このような環境において、本プロジェクトは「ヒト」・「モノ」を単に情報伝達のツールとして用いるのではなく、体験的な手法で活用することで「異文化間能力」を育成することをねらいとしています。
これは、「異文化を拒否せずに受け入れ、それに対して、認知、情動、行動のすべての面において、自らを柔軟かつ適切に調整できる能力・資質」*ととらえています。つまり、特定の文化に関する知識を記憶させるのではなく、異文化理解の土台となるような力をコミュニケーションを促すアクティビティを通じて育てることを目標としているのです。
今回も、こうしたねらいを低学年向けのスライドを用いて伝えました。そして、そのために必要なのが、ワークショップを通じて参加者全員が「協働」すること「聴く」と考えています。このワークショップでは、この2つをキーワードにさまざまなアクティビティに挑戦するプロセスで世代や日本語の習熟度の違い等を超えた異文化コミュニケーションを子どもたちだけでなく留学生を含め参加者全員が体験します。
*高橋順一「モノが育てる異文化リテラシー」中牧弘允・森茂岳雄・多田孝志 編『学校と博物館でつくる国際理解教育 新しい学びをデザインする』、2009年、明石書店、43頁
留学生の自己紹介とふるさとクイズ
留学生が一人ずつ母語と日本語で同じ内容の自己紹介を行います。内容は名前と出身、好きな日本の文化としてアニメや漫画作品と食べ物です。ここで初めて発言する留学生の言葉に子どもたちは、集中して耳を傾けます。すると留学生の母語であっても、自然と聞き取ることができるのです。子どもたちにとっても身近な食べ物や作品が聞き取れると、嬉しさと親近感が自然と湧き上がります。
全員の自己紹介が終わると、クイズの形で留学生のふるさとの一側面を紹介します。題材は、日常生活における身近な習慣やコミュニケーション、学校生活等から取り、三択形式で答えてもらいます。答えは挙手で一人ひとりが発表するのではなく、全員がそれぞれの考えを表すことができるよう、選択肢を割り当てられた3人の留学生の前に移動することで意思表示を行います。考えながら体を動かし、留学生と出会うことで興味を高め、子どもたちと留学生のグループによる活動に移行してきます。
世界の遊び道具体験
会場内に3箇所に分類して配置した遊び道具を、6〜7名の子どもたちと1名の留学生がグループで一緒に1つずつ体験していきます。多種多様な遊び道具を前にテンションが上がる子どもたち。世界各国のけんだまやコマをグループで共に楽しむことで、日本以外にコマやけんだまがあり、その仕組みも数多くのバリエーションがあることが分かります。
しかしここでは、遊びを通して多様性に触れると同時に、未体験の遊びに共に取り組み体験を共有する過程でコミュニケーション促す機会をつくりだすことをねらいとしています。遊び方が分からないものがあれば留学生がガイド役として紹介したり、こどもたちがさまざまな遊び道具に触れて発する言葉を受け止め共感したりします。
留学生と子どもたちが協働して完成させるものづくり
このアクティビティでは、留学生がブラジルの「チクタク」というけんだまの仲間をマネた遊び道具の作り方を子どもたちに説明し、全員が協働して一人一点完成させ持ち帰ります。ここまで一緒に取り組んできた留学生と子どもたちにとって、より一層コミュニケーションに集中することが求められます。
留学生は材料を全員に配り、工程を1つずつ説明していきます。一方的に語るのではなく、子どもたちが理解できているか、説明した通りの作業ができているか確認し、必要に応じて声をかけながら進めていかなければなりません。子どもたちも分からないことがあれば、自分から声をあげ尋ね、留学生の手が足りなければ子どもたち同士の助け合うよう促します。このアクティビティでは全員がチクタクを完成させることをゴールとして、このように一人ひとりの主体的な取り組みを促します。
最後に全員集まり、ワークショップの中で何に取り組んだか振り返ります。さらに、エデュケーターからその間の子どもたちや学生スタッフのパフォーマンスが、ワークショップのねらいにどのようにつながるのかフィードバックを行いました。
このように、異文化協働体験ワークショップでは、参加する子どもたちにとって、教員・留学生・日本人学生といったさまざまな背景・立場・関係性の人間とふれあい、楽しみながら、文化の多様性に触れ、そのなかでリアルな異文化コミュニケーションと協働にチャレンジする学びの場とすることを目指しています。