2019年7月13日(土)に青梅市教育委員会国際理解講座として国際学生訪問ワークショッププログラムを実施しました。これは、年間20回開催される連続講座のうち、6月22日(土)に続いて本プロジェクトが担当する2回目となります。
「ホンモノに出会い、ふれあう」ヒトとモノでは何がちがう?
この日も前回と同様、小学校5年生のクラスと小学校6年生から高校生までのクラス、計2クラスに留学生と共に活動するワークショップを行いました。「前回学んだ「異文化を理解するのに大切な2つのアイテム、覚えている?」草の根プロジェクトがさまざまなワークショップで掲げる学習目標「聴く+協働」のおさらいからスタートです。
この日、子どもたちが出会い、ふれあうホンモノの異文化は、実物資料ではなく留学生です。生まれたところやことばや年などは違うけれど、自分と同じように生きている人間です。「留学生も「聴く」力を使って、一生懸命キミたちのことを知ろうと、耳を傾け、よく見て、心を寄せて、考えをぐるぐるめぐらせているよ。物にはそんなことされないから、ちょっとぐらいよそ見したり黙っていても平気だけれど、相手が人間の場合はそうはいかないね」子どもたちに語りかけます。
「この子たちはどんな子だろう、自分はどう受け止められているのだろう」子どもたちと教室で出会ったとき、留学生は多くのことを考えます。それは、挨拶や返事などをどのようにするか(しないか)、活動の場へどう集合するか(座る位置)、顔を上げて相手や周りを見ているか。そんなちょっとした子どもたちの言動のひとつひとつが、留学生が子どもたちを理解するために「聴く」材料になっているのだと伝えると、子どもたちの中で「聴く」ということの意味は重さを増し、全力で聴こうという意識を始めていきます。
聞こえた!わかったよ!-「聴く」は異言語を越える
留学生の自己紹介が始まりました。「あれ、このことばは・・・?何を話しているのかな」いきなり耳にする留学生の母語に、子どもたちは一瞬戸惑います。しかし、聴き続けていると、知っている言葉が耳に入ってきます。その後、日本語で留学生が話し、内容を理解することができます。そのとき、「さっき聞こえたことって、このこと?!聞こえたよ!」と、子どもたちは驚きながらも嬉しそうです。 自分の未知の言語であっても、「この人はどんな人なのだろう。知りたい!」という心の底からの気持ちを持って聴いていると、自力で聴きとり理解することができるということを、この留学生の自己紹介から子どもたちは体験するのです。
その後、子どもたちへ聴き方に工夫を加えていくような働きかけを少しずつしていきます。「みんなの全力の “ 聴く ” 伝わってきた。いいね!次は、自分のために一生懸命伝えようとしている留学生が、もっと安心してリラックスして気持ちよく話ができるようにするには・・・やさしい目と微笑み、うなずき、問いかけに対する返事やあいずち。「聴いてくれている!伝わっている!」って嬉しくなるようなことをプラスしていこう」 留学生の自己紹介を一人、二人と重ねていくごとに、子どもたちの聴き方は上達し、留学生と子どもたちの間に信頼関係の土台が築かれていきます。また、「個」であった参加者の子どもたちにも自然と一体感のような空気が生まれてきます。このような全員の聴くが積み重なり、留学生と向かい合い、耳を傾けるような自己紹介の活動でさえも「協働」なのだと、子どもたちの中に少しずつ気づきが芽生え始めます。
「私はこう思う!」自分の考えを表明しよう!
この国際学生訪問ワークショップでは、対象者や現場を問わず、留学生それぞれのふるさと紹介は恒例です。しかし、私たちの活動では、留学生がレクチャーやプレゼンテーションで紹介するのではありません。学習の主役であるワークショップ参加者が自ら考え、参加することで初めて成立するような全員参加型のクイズで紹介します。
「一緒に参加している友だちと相談はしないこと。周りの人たちがどの答えに行くかを見て考えたり気にしたりしないこと。自分が「こう思う」という答えに動くこと」これがこのクイズのルールです。子どもたちに、自分で課題を受け止め、自分で考え(予想して)、自分で考えを表明する(動く)という自律的な参加や思考をしてほしいからです。
わざわざ動いてクイズをしなくよいのでは、と思われるかもしれません。挙手の場合、手をあげない参加者が必ず出てしまいます。これは、意見を持たない、つまり参加を放棄するということです。あるいは、他人事として傍から見ているような状態です。実は、意見があっても、周囲や正解を気にして考えを示さないという学習者もいますが、これも同様です。異文化理解において、課題を自分事として受け止め、自分なりに考えを持ち、その考えを自ら責任を持って表明することは、非常に大切なことです。このクイズは三択なので、答え(正解)はありますが、現実では必ずしも確かな正解があるとは限りません。自分なりに課題を解釈し、試行錯誤して取り組むというそのプロセスが重要です。そのような自分で思いをめぐらし、予想してみるという主体的な思考を、子どもたちは楽しいクイズ型アクティビティで練習しているのです。
さて、このクイズは、日頃の生活の中にあふれている様々な文化を取り上げた比較文化の問題です。 例えば、ジェスチャーのような非言語コミュニケーション、礼儀やマナー、迷信、遊び、学校生活、子どもたちにとっても身近なトピックばかりです。このような切り口から、留学生は自文化をふりかえり、日本との比較を行いながら、クイズの問題を具体的に考えます。専門的な事柄でなく日常的なことだから簡単な作業のようにも思われるかもしれません。しかし、発達段階の異なる多様な学習者にあわせた問題づくりは、学生にとっては大変難しいものです。草の根プロジェクトで活動する留学生メンバーたちは、エデュケーターとともに、この準備に1カ月ほどかけています。そんな裏の苦労話も頭のかたすみに置いていただければ幸いです。