【報告】学内授業科目における実物資料の利用を再開しました

桜美林大学では、実習・実験などを含む一部の授業科目では、感染防止対策を徹底した上で対面型の授業を実施しています。草の根プロジェクトでは、4月からオンライン型のワークショップで学内の授業に対する支援を行ってきました。さらに、対面型の授業実施にあわせ、学内に限り、実物資料の利用を再開することにしました。

実物資料を媒介にした感染を防ぐためには、利用者のマスク着用や手指の消毒に加えて、使用後の拭き取り除菌が必要となります。しかし、資料の素材によっては、除菌を繰り返すことで劣化が進んでしまいます。そこで、特に使用する機会の多い実物資料を中心に、傷みやすい塗装面を保護するためにニスによるコーティングを実施しました。


ニスを塗ってツヤを増したコマとけんだま

博物館実習で活用する実物資料

こうした実物資料が、9月から10月にかけて開講された「博物館実習」のなかの2つのプログラム「やさしい日本語のハンズ・オン展示づくり」と「体験展示の環境づくり」(以下、ハンズ・オン展示/体験展示)で活用されました。

ハンズ・オン展示のクラスでは、学習者(来館者・利用者)が資料を手にとってじっくり観察したり、実際に資料を体験したりできる「ハンズ・オン資料」だからこその特長を最大限に発揮することを目標に、学習者の体験を促すキャプションづくりにチャレンジしました。このクラスで利用した資料は、多種多様な遊び方のこま(独楽)です。一方の「体験展示の環境づくり」では、こま(独楽)に加えて、さまざまなけん玉とボードゲームなどの遊び道具を活用しました。

いずれのプログラムにおいても、まず学生たち自身が実物資料に関心と親しみを持つことが出発点です。そして、その資料の特徴を真に理解するために、実際に資料に触れ、自身の感覚を通じた観察が必要です。今回のプログラムの場合は遊び道具なので、手にとって触れて見ているだけでは十分な資料研究にはなりません。遊び道具を実際に体験して、初めてそのものへの理解に一歩近づきます。これが「資料研究」です。

見たことも触れたこともなければ、当然その遊び方やおもしろさなど、さっぱりわからない未知のこまやけん玉の数々に出会った学生たち。そのとき抱いた「これは何だろう?」「どうやって遊ぶんだ?」「これがこま?!けんだま?!」「やってみたい!」といったさまざまな感情をしっかりと認識することは、そのハンズ・オン展示の資料に学習者が出会ったときの感情も理解することにつながります。つまり、学習支援者として大切な「学習者理解」です。

「体験展示の環境づくり」で展示されたけんだま

このような資料理解のための資料研究の活動と、その最初の過程で自らも体験してわかる学習者理解、それを経て、学生たちは自分たちなりの展示や環境といった学習デザインに取り組んでいきます。いずれのプログラムにおいても個人作業・活動ではなく、学生間での気づきやアイデアの共有と協働を大事にしています。ただ、長らく続いた自粛生活とその最中でのオンライン授業により、学生間の関係性の構築、コミュニケーションや協働がどれだけできるだろうかと、多少の不安がありました。しかし、ハンズ・オンの資料を使って活動していくうちに、学生たちの緊張感や不安は吹き飛んでしまいました。まるで、以前からよく知る間柄であったかのように、あっという間に協働する仲間になりました。

そんな2つのプログラムでは、それぞれ最終日に実習の最終ゴールとして、ハンズ・オン展示の展覧会、仮想の体験型張博物館を学生たちの手で創り上げました。その達成感や充実感、また今後にむけたさらなる課題や目標など、多くの収穫があったようです。資料研究と学習者理解、学習リソースや学習環境の実践的なデザイン、学生たちの協働といったチャレンジは、ハンズ・オン資料を活用するからこそ、学生たちにもたらされる豊かな学びではないかと考えます。

仮想の博物館で遊び方を伝える練習。ガイド役と来館者役に別れて行いました。

今回の実習では、ソーシャル・ディスタンスを保つよう意識したり、マスクのために表情を読み取りづらい状況にも関わらず、展示作りや遊び方を伝える練習等の中でも、学生同士が非常に生き生きと活動している姿を見ることができました。こうした協働的な実践を通して展示空間を作り上げるという学習体験は、現場ではオンラインで代替できるものではないでしょう。

草の根プロジェクトとして、学外へのアウトリーチ教育プログラムの休止は継続せざるを得ません。しかし、久しぶりに実物資料を学習者が自身の手に高揚感をもって活動に取り組む様子を見ることができ、休止以前の現場の感覚を少し思い出す機会となりました。1日も早く新型コロナウィルス感染症の収束し、人と人との距離を縮めた交流が再開できるようになることを願うばかりです。

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