これまでこのコラム「学而事人と草の根プロジェクト」では、学内外の教育現場からの依頼に応じて実施するアウトリーチ教育プログラムにおいて、スタッフとして参加する学生たちがどのような活動をしているのか、以下のようなテーマでそれぞれご紹介してきました。
コラム1:実物資料を活用したワークショップや世界の遊びと衣装の出張博物館において、学生が学習者・来場者へ体験を促し、学びを触発するファシリテーターとしての役割について
コラム2:留学生がそれぞれの個性・背景を活かしながら、本学への留学を含む一人ひとりのライフヒストリーを素材にしたワークショップについて
そして、3回目の今回は、これらの教育活動の実践に携わる学生スタッフが、アウトリーチ教育活動本番までに、どのような事前準備をしているのかについて、ご紹介します。
各種ワークショップや出張博物館を共に実施するために、学生スタッフには本プロジェクトのメンバーとしての共通理解があります。そして、各実践現場で必要な具体的なスキルを身に付けるとともに、活動計画を綿密に理解しなければなりません。そのようなプロジェクトの一員としての土台となる共通理解を形成する研修、各教育活動にむけた研修やミーティングは、エデュケーター2名(岩本・清水)が企画・実施しています。本プロジェクトでの活動は、基本的に本学の学期単位で活動サイクルを形成しています。そのため、学期中、学生スタッフは主に下図のような流れで活動しています。
学期始め・初回研修
本プロジェクトの新学期は、長期休み明けの大学のオリエンテーション期間より始まります。授業開始前に学生を招集し、ミーティングを開きます。学生たちが各自の都合に合わせて参加する活動を検討するよう、その時点で予定しているアウトリーチ教育プログラムについて全体で共有します。さらに、その最初のミーティングでは、活動の経験の有無に関わらず、本プロジェクトの活動の目的や概要、教育現場に参加する上で必要な共通理解などを深めるための研修も行っています。こうした研修は新しく加わる学生に対しても、その都度、実施しています。
草の根プロジェクトについて関心を持ち、スタッフ体験を経て正式にメンバーとなる学生たち。この時点で、すでにある程度の理解はありますが、教育=学習支援をする側としての立場・視点で、あらためて本プロジェクトについて再確認し、理解を深めていきます。
例えば、草の根プロジェクトとは何か(理念・方針、教育リソース)、それを具現化した各種アウトリーチ教育プログラム、また、そのなかでもワークショップ型のさまざまなプログラムの教育的な意図(=学習目標)を実際のワークショップのメニューを例にとって具体的に学びます。活動経験を有し、出張博物館をはじめとする各種プログラムを経験してきた学生には、その体験と結びつけて自分自身で考えることを促します。経験が浅いメンバーや新メンバーの学生は、先輩学生スタッフの体験にもとづく解釈・理解を共有し、学びあいます。
このようなプロジェクトについての理解とあわせて、その土台となる重要なトピック「学習・学び(多様な学び、生涯学習)」「学習支援(ファシリテーション)」「文化、異文化理解」といった分野についての基礎的な学習を行います。これらはとても抽象的で専門的なトピックです。学生たちにとっては、ここで初めて知ることも少なくありません。一方的な講義形式による研修ではなく、簡単なワークを取り入れたり、具体例を挙げたりしながら、学生たちが学習の主体として参加できる研修を企画・実施しています。
アウトリーチ前の準備
アウトリーチ教育プログラムの実施本番前には、各現場への参加メンバーを集めて具体的な活動計画を共有し、必要な準備や練習などを進めていきます。ワークショップの場合はその学習内容にもよりますが、これまでにはないアクティビティや進め方、そのポイントなど新しい要素がある場合、また経験の浅い学生スタッフが参加する場合については、およそ4〜5週間前より準備を始めることもあります。すでに経験してきたプログラム内容であったり、経験豊かなメンバーがそろっている場合でも、必ずミーティングは開きます。それまでの実践で得られた改善点を改めてフィードバックし、それらを反映させるためです。この場合も2〜3週間前より準備していきます。
準備作業の中で学生スタッフは、まずワークショップ全体のねらいを理解しなければなりません。そして、プログラム(ワークショップの中で、どんなことをどんな流れでどのように展開していくか)とその意図とともに、その中で各自に求められるファシリテーターとしての役割を十分に理解し、さらに、その際、必要なさまざまな作業を把握することが求められます。また、ワークショップの中で実物資料を活用する場合には、そのアクティビティの内容理解はもちろんのこと、参加者に対する働きかけも想定します。そのためには、当然、実物資料そのものの扱い方を身に付けていなければなりませんから、練習に取り組む必要があります。
前回のコラムでご紹介した学生が学びのリソースとなるワークショップでは、こうした準備以外にも、生い立ちや学習暦といった背景、日本での生活経験・体験エピソードなど、自分自身をさまざまな角度から振り返る作業が必要です。そして、対象となる学習者を十分に理解し、彼らにに対して具体的に自分のライフヒストリーを提示するためにはどうしたらよいか、エデュケーターと他のメンバーとで対話を繰り返し、実践練習を重ねていきます。
小学生が対象であれば、よりこどもたちにとって身近な日常生活や学校生活におけるトピック(例えば、習慣やコミュニケーションのとり方など)を取り上げます。日本の一般的なものと、母文化とを比較しながら、そのトピックを深掘りし、ワークショップの中で活用できる形に整えていきます。また、中高生が対象の場合は、各自のこれまでの歩みを振り返り、エデュケーターと他のメンバーとでディスカッションで共有します。中高生のこどもたちが進路について考えるきっかけや材料にしてもらえることを念頭に、ワークショップでどのように伝えられるかを具体的に検討し、必要な準備・練習に取り組んでいます。
このように、アウトリーチ教育プログラムの実践に参加する学生は、そのためにさまざまな準備を重ねて現場に入ります。アウトリーチ先における実践で得られる経験だけでなく、こうしたプロセスを仲間とともに経ることによって学生は成長していきます。
4回シリーズの最終回となる次回は、ここまでご紹介した本プロジェクトにおける活動を通して、学生が何を学び、どのように成長しているのかについてご紹介します。