「1月は往く、2月は逃げる、3月は去る」― 日本の年明け3カ月の時の速さを表したことばです。瞬く間に過ぎていき、気づけば新年度を迎えます。学校教育現場では学年末・年度末で大変重要な時期です。学習/教育・研究活動の総仕上げ・ふりかえり、次年度にむけた準備でいっぱいです(この状況は大学も同じです!)。しかし、子どもたちの学びはどんなときでも常に現在進行形です。私たち草の根プロジェクトは、この時期も学校/社会教育活動の現場を支援しています。
先日、私たちが授業を行ったのは、町田市立忠生小学校4学年(3
「実物体験」というプログラムの名前の通り、学習者である子どもたちが実物資料に触れて本当に体験するわけですが、物に触れること自体がねらいではありません。今回のケースで考えてみると、こまは子どもたちの学習活動の材料・道具であって、子どもたちがこまで思う存分遊ぶことが最大・最終の学習目標(ゴール)ではないということになります。それでは、こま遊び体験を通して、子どもたちはどんなことを学ぶのでしょうか。言い換えるならば、このワークショップ型授業(学習者主体の体験を重視した学習活動)の学習目標(教育目標)とは何かということです。
こまと言って思い浮かべるものは、多くの日本の人たち(日本の学校教育や伝統的なあそび文化のなかで育った人たち)の場合、 写真のような紐を巻いて投げる「投げごま」、指でひねって回す「ひねりごま」、 両手ではさんで回す「もみごま」と呼ばれるようなものだと思います。そして、こまは日本独自のものだとも思われがちです。しかし、実はこれは自分の経験や知識を基準にした考え方です。こまは日本そして世界各地で親しまれており、その形も遊び方も多様です。
本プロジェクトでは、このようなことをことばだけで伝えて、子どもたちに頭で理解させる(レクチャー)のではなく、実際に子どもたち自身が多様なこまを自分の目で見て、自分の手で触れ、本当に試すといった方法で伝えます。このような体験を通じて、学習者には心からの「なるほど!」という気づきが生まれ、これが真の理解につながるからです。さらに、本プロジェクトのワークショップでは、こまにとどまらず、身近な物や事、そして私たち人間、つまり、自分たちの生きる社会は、たくさんの多様性にあふれているということにも気づいてもらいます。これは、他者理解や相互理解の足がかりとなるからです。このことは、私たちに依頼される各現場からいただく教育目標(=依頼の理由・ねらい)にも非常に多く見られることで、私たちはこんなふうにして現場の要望にお応えしています。
これは実際の活動中の写真です。 子どもたちが手にしているこまは、日本・世界各地のもので、先ほどのようなおなじみのこまとは、形も遊び方も異なるものばかりです。そんなこまがどんなふうに回るのか、どんな手順で回すのか、手ほどきをすることなく子どもたちに渡します。グループの仲間と共にアイデアを出し合い、実際に助け合いながら試してみる時間を与えます。このとき、子どもたちの中では、どんなことが起きているのでしょうか。自分の中にあるこまとは異なる未知のこま、つまり、異文化との出会いです。人が異文化接触するとき、ほとんどの場合は、その対象(人、物、物事)についての理解がない状態です。そこから、 その対象を知るために、少しずつ近づき、観察したり、さまざまな働きかけを試み、その積み重ねで対象に関する情報を収集し、理解しようと思考をめぐらしていきます。
この日のワークショップはグループワークを軸としており、こまに触れる活動で子どもたちに与えるこまは2,3人にひとつです。「こまの多様性に気づかせるなら、一人にひとつずつ与え、もっとたくさんこまに触れて遊ばせたら?異文化接触の体験ももっと密にできるでしょう」と思われる方もいるかもしれません。実は、ここにもねらいがあります。それは子ども同士の協働です。異文化に遭遇したとき、自分の持ち合わせている知識や経験、ものの見方や考え方(価値観)だけでは対処・対応しきれないこと、確固たる答えや納得できる結論を得られないことに向き合うことは少なくありません。そんな難題に取り組むために、自分とは異なる他者と互いの思いや考えに耳を傾けあい、新しい知恵を生み出し、共に試行錯誤することが求められます。このワークは、まさにその体験を子どもたちがチャレンジしているのです。
現在、私たち草の根プロジェクトがご用意しているワークショップのプログラムは3つあります。全く別々の学習にも見えますが、3つに共通していることは、国際/異文化理解あるいは他者/相互理解の学習が目指す ①人や物・事の多様性の理解と、②そのために必要な「聴く」と「協働」のチャレンジです。これらをどのように伝えるかは、学習者の発達段階や実態・特徴に応じて調整し、アプローチを変えています。つまり、プログラムごとに決まった型があり、それをいつでもどこでも誰にでも同じように実施しているのはなく、各現場・対象による「セミオーダーメイド」的な学びづくりをしているということです。そのため、実施を希望される現場のみなさんとの十分な事前打合せ、実施にあたっての共通理解の共有、相談・準備段階から実施・終了までの積極的な協力・連携が不可欠となります。これまで実施してきたさまざまな現場での活動報告をご覧いただくと、いろいろな内容・方法、またそれぞれ違った面白さなどにお気づきいただけるかと思います。今後ご自身の現場で検討されているみなさん、ぜひ参考にしていただければと思います。