桜美林大学はかねてより2期制で、9月入学(留学)生もいます。同時に、この時期は卒業や留学終了の時期でもあります。昨年9月より本プロジェクトのメンバーとして1年間活動したリンさん(ベトナム・ハノイ、ハノイ大学大学院生/留学生別科生)が帰国を前に、母国ベトナムの民族楽器と木版画を寄贈してくれました。
これは「トルン」という竹琴(ちっきん)です。木でできた「木琴」、鉄でできた「鉄琴」は、日本でもおなじみで、学校の音楽室にもありますね。ベトナムをはじめ、高温多湿の地域では竹を使った楽器がみられます。草の根プロジェクトのワークショップでも、竹で作られたインドネシアの伝統民族楽器「アンクルン」はよく登場します。
このトルンがおもしろいところは、まずその形です。一般的な木琴や鉄筋のように水平でピアノのような鍵盤楽器を連想させるものではなく、写真のように縦にセットされた形は、鍵盤型の打楽器としてはめずらしいです。
この楽器からは、ベトナムが多民族国家であることも学ぶことができます。ベトナムは54もの民族からなります。それぞれに伝統的な楽器があるそうですが、人口の約9割はキン族(漢民族系)が占めているため、伝統楽器の多くも中国に由来するものが多いそうです。しかし、そのなかでトルンは特別です。中部の高原地帯タイグエンの少数民族のひとつであるエデ族の楽器です。そんなトルンは、ベトナムを代表する楽器のひとつとして当然のように取り上げられ、今では民芸品やお土産品にまでなっているほどだそうで、大変興味深いものですね。
「ドンホー木版画」は、長い歴史のある伝統文化のひとつで、一般家庭で飾られる大衆的で身近なものだそうです。ベトナムでは無形文化遺産として既に認定されていますが、現在、世界無形文化遺産としてユネスコに申請中だそうです。
伝統的な技法で作られた紙(日本で言うところの和紙)に描かれた絵からは、昔のベトナム庶民の日常生活の様子を理解することができます。中国語(漢字)も記されており、中国王朝支配下にあったこともわかります。また、版画のそれぞれの絵にはストーリーや意味があり、それらを通じて、生活の教訓や哲学などを人々に伝えることが目的とされているそうです。昔話の絵本や絵を使って、大切なことを親が子へ、大人から子どもへ教えるというのは、古今東西、わたしたち人間にとって共通のことなのですね。
貴重な資料を寄付してくれたリンさん、どうもありがとう。そして、1年間に渡って、たくさんの知恵と努力と「なるほど!」をどうもありがとう。巣立ちゆく学生を見送るとき、わたしたちがいつも願うことがあります。草の根プロジェクトでの経験すべてが彼/彼女らの糧となり、それぞれの未来や母国に何かしらのかたちで貢献できれば嬉しく思います。