博物館に行く?行かない?

休みの日に行く場所は?

皆さんは、休日は何をして過ごしていますか?

テレビを見たり、音楽を聴いたり、読書をしたり、インターネットを使ったりしているかもしれません。あるいは、家族とともに家で過ごす方や、スポーツ、散歩、ドライブ、旅行などアクティブに活動する方もいると思います。このように、休日の過ごし方は十人十色ですよね!

JR東海の調査によれば、休日の過ごし方で最も多いのは「ショッピング」(69.1%)で、どの年齢層でもトップでした(JR東海「休日の過ごし方に関する調査」2016年)。次いで、「映画鑑賞」(42.6%)、「ドライブ」(28.3%)、「飲み会」(24.7%)と続き、その後に、「美術館・博物館」(18.9%)が入ってきます。「スポーツ観戦」(18.8%)、「テーマパーク・アミューズメントパーク」(15.4%)、「演劇鑑賞・古典鑑賞」(7.0%)と比べても高い数字ですが、この数字をどう考えればいいでしょうか?

ちなみに、文部科学省の調査によれば、1年間で博物館を訪れた人の総計は、およそ3億人です(文部科学省『社会教育調査』2018年)。この数字は、国民一人あたり約2.4回博物館を訪れている計算となります。(後藤・長原)


博物館を訪れる理由/訪れない理由

では、なぜ博物館に行くのでしょうか。JTBの調査では、博物館を利用する理由として「観たい展示物があった」、「周辺に行きたい観光地があった」、「展示物の背景や歴史に興味があった」などが挙げられていますが、興味深いのは、「雨だったから」という理由です(JTB「美術館・博物館に関するアンケート調査」2012年)。博物館は、天候に左右されずに楽しめるスポットであることを示しているといえるでしょう。

また、学校の社会科見学や校外学習の一環として行くという理由も考えられます。楽しさを求めるよりも勉強の目的で利用する人もいるでしょう。

一方、博物館に行かない理由を調べたデータもあります(第一生命経済研究所「美術館・博物館の利用に関するアンケート調査」2006年)。子どものいる親に尋ねた調査ですが、「行きたくても行く時間がない」(45.9%)、「身近なところにない」(42.9%)、「仕事や家事の忙しさに疲れて面倒で行く気がしない」(35.7%)という理由が続きます。忙しくて余裕がない現代人の姿が透けて見えるようです。(後藤・長原)


どうすれば博物館に行きやすくなるのか?

文化庁では、「どうすれば博物館にもっと行きやすくなるか」という意識調査をしています(文化庁『文化に関する世論調査』2020年)。これによれば、もっとも多いのは「入場料が安くなる」(48.1%)、次いで「住んでいる地域やその近くにできる(増える)」(33.6%)、「展覧会の開催に関する情報がわかりやすく提供される」(25.4%)、「行くための交通の利便が良くなる」(23.7%)と続いています。

この結果から、経済的要因、情報提供に関わる要因、交通の利便性に関わる要因が、博物館の利用に大きく関わっていることが分かります。博物館利用の程度の差は、多岐にわたる要因に基づいているといえるでしょう。(後藤・長原)


博物館利用の国際比較

次に、博物館がどのように利用されているか、日本と外国で比較してみていきます。

まず、博物館の数を比べてみます。日本博物館協会の調査によると、アメリカが圧倒的に多く、17,500館。次いでドイツ6,604館、日本6,096館、イタリア3,847館、ブラジル3,346館、中国3,069館と続いています(日本博物館協会『諸外国の博物館政策に関する調査研究報告書』2014年)。

アメリカは国土が広いため、これだけの数があってもおかしくありませんが、他の国の博物館数と比べてみると、必ずしも国土面積と博物館数とは比例していないようです。むしろ、国ごとの博物館に対する姿勢の違いが浮き彫りになります。

次に、入館者数の比較をしてみましょう。イギリスの美術誌『The Art Newspaper』が発表している2019年度のランキングでは、ルーブル美術館(フランス)がとびぬけて多いことが分かりますね。次いで、中国国家博物館(中国)、バチカン博物館(バチカン市国)、メトロポリタン美術館(アメリカ)、大英博物館(イギリス)と続きますが、日本の国立博物館、国立美術館はTOP10に入っていないどころか、最高位は東京都美術館の20位です。次いで東京国立博物館が24位、国立新美術館の32位、国立西洋美術館の43位と続き、世界的に見ると必ずしも入館者数が多いというわけではありません。

Top ten most popular art museums / The Art Newspaper

身近ではない?日本の博物館

なぜ日本は入館者数が少ないのでしょうか。森ビル株式会社が、東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、上海の5都市で博物館利用について調査したところ、「年に1回以上行く人の割合」でも「年間平均回数」でも、ともに東京は最下位でした(森ビル株式会社「東京・NY・ロンドン・パリ・上海 国際都市アート意識調査」2007年)。



その一方で、東京国立博物館や国立新美術館での特別展など、一部の展覧会の観客動員数は世界有数であることも分かっています(The Art Newspaper)。


Top 20 most popular exhibitions / The Art Newspaper

期間を限定して開催される特定の特別展には異常な集客がある一方で、常設展示や博物館そのものについてはそうではないのです。つまり、日常的な博物館利用ではなく、イベントとして消費されているという特徴を見出すことができます。

このように、日本は他の国と比べると、博物館が私たちの日常生活の中で「身近な存在」にはなっていないのかもしれません。(後藤・長原)