世界遺産の歴史は、1950年代にさかのぼります。
1952年、エジプトではナイル川の氾濫抑制と農業用水確保、安定的な電力供給などを目的として、アスワン・ハイ・ダムの建設計画を決定しました。
ところが、このダム建設によって、その周囲にあるヌビア地方の「アブ・シンベル神殿」や「フィラエのイシス神殿」など、古代エジプト文明の遺跡群がダム湖に水没してしまうことが判明します。
これを受けて、1960年にユネスコはヌビアの遺跡群救済キャンペーンを開始し、本格的な募金活動を行います。その結果、多くの国から寄付金が集まり、大規模な移築工事を行い、ヌビア遺跡内のアブ・シンベル神殿は救済されました。
それだけでなく、約50ヶ国もの国々や民間団体、個人が協力してこの遺産を救済したという経験は、「人類共通の遺産」を国際協力によって守るという理念を生み出し、それがのちの世界遺産の考え方につながっていくのです。(高山)
世界遺産・豆知識
最初に登録された世界遺産は?
世界遺産条約が1972年にユネスコ総会で採択された後、世界遺産として最初に登録されたのは以下の12件で、1978年のことでした。
- ガラパゴス諸島(エクアドル)
- キト市街(エクアドル)
- アーヘン大聖堂(ドイツ)
- ランス・オ・メドー国定史跡(カナダ)
- シミエン国立公園(エチオピア)
- ラリベラの岩窟教会群(エチオピア)
- ナハニ国立公園(カナダ)
- ゴレ島(セネガル)
- メサ・ヴェルデ国立公園 (アメリカ)
- イエローストーン国立公園(アメリカ)
- クラクフ歴史地区(ポーランド)
- ヴィエリチカ・ボフニア王立岩塩坑(ポーランド)
一方、日本は、世界遺産条約に批准したのが1992年と遅く、125番目の加盟国となりました。日本最初の世界遺産は1993年に登録された以下の4件です 。
- 法隆寺地域の仏教建造物(奈良県:文化遺産)
- 姫路城(兵庫県:文化遺産)
- 屋久島(鹿児島県:自然遺産)
- 白神山地(青森県・秋田県:自然遺産)
世界遺産が多い国(2021年8月現在)
世界遺産がもっとも多い国はどこでしょうか。予想通りという方も多いと思いますが、国全体が美術館と言われるイタリアです。
イタリアは登録数でずっとトップを独走してきましたが、このところ猛追してきているのが中国です。中国は国を挙げて登録数の増加に力を入れ、2019年にはついに同数でイタリアと並ぶまでに至りました。
・1位:イタリア 58件
・2位:中国 56件
・3位:ドイツ 51件
(日本 25件)
文化遺産に限ると、やはりイタリアが圧倒的に多く、またヨーロッパがトップ3を占めています。ヨーロッパに世界遺産が集中する理由は、もともと世界遺産条約が欧米主導で進み加盟国がヨーロッパに集中していたこと、ヨーロッパの建築物のほとんどが石造りで劣化が起きにくく、建設当初の材料のまま残りやすかったこと、などが考えられます。
・1位:イタリア 53件
・2位:ドイツ 48件
・3位:スペイン 43件
(日本 20件)
一方、自然遺産は広大な国土をもち豊かな自然環境に恵まれている方が登録には有利になることから、文化遺産のラインキングとはまた違った様相を呈しています。
・1位:中国 14件
・2位:アメリカ 12件
・2位:オーストラリア 12件
(日本 5件)