本章では、まず御朱印巡りをするにあたって基本的な事項について説明していきます。そもそも御朱印とは何か、いつから始まったのか、御朱印にはどのような種類があるのか、どのように集めるのか、といった御朱印の基礎から学んでいきます。
「御朱印巡りって流行っているけど何をしたらいいのか分からない」、「そもそも御朱印のことをよく知らない」という方や、「自分の御朱印集めが正しいかどうか不安」という方は、この章から始めてみましょう。(桐山 景)
御朱印とは
御朱印とは、神社やお寺を参拝した証として寺社から授与される「参拝証明」のようなもので、多くの場合、朱色の印章と社寺名もしくは神仏名の墨書きで構成されています。御朱印をいただくために使用する帳面を「御朱印帳」といい、参拝者はこの御朱印帳に集めていきます。
現在は朱と墨の二色だけでなく、さまざまな色を使ったカラフルなものや、紋様、図柄などに凝った意匠を施した御朱印も多くあり、こうした御朱印を集める御朱印巡りは近年人気を集めています。
しかし、御朱印巡りはあくまでも宗教的な意味合いに基づくもので、単なるスタンプラリーとは違った性格をもっています。御朱印が参拝の証であることを忘れてはいけないでしょう。(桐山 景)
御朱印用語の基礎知識
この展示の中では、いくつか御朱印に関する独特の用語を使っています。知っておいて損はありませんので、ぜひこの機会に覚えておきましょう。(小林彩奈)
- 集印:御朱印を集めること。観光名所の記念印を参拝・訪問記念に押して集めること
- 御朱印帳:御朱印をいただくための専用の手帳。御朱印帳は、文具店・書店などで売っているほか、神社の社務所や寺院の納経所などでも購入可能です。
- 直書き:御朱印の書き方の種類の一つ。御朱印帳に直接書いていただく御朱印のこと。
- 書き置き:あらかじめ御朱印が書かれた状態の和紙のこと。御朱印の書き手さんが不在のケースや、神事・仏事などで多忙な場合などは、書き置きの御朱印のみになることが多いです。
- 初穂料:神社で御朱印をいただく際には初穂料という料金を支払います。初穂料とは、神社で祈祷やお祓いを受けたり、祝詞を上げてもらったりしたときに神社に渡す謝礼金のことです。お寺の場合は、「納経料」「志納金」「志納料」「お志」などと呼びます。御朱印は1枚につき300円から500円が相場です。おつりが出ないように小銭を用意しておきましょう。
御朱印巡りの手順
御朱印は、あくまでも参拝した証として授与されるものです。そのため、まずは参拝してから御朱印をいただくのが基本です。
参拝の手順としては、神社では入口にある鳥居の前で、寺院の場合は山門の前で礼をします。そして、まず手水舎で身体と心を清めてから参拝をします(コロナの影響で閉鎖されている場合があります)。寺院と神社では作法が違いますので気をつけましょう。
最近は、アニメやゲームとコラボした御朱印も増えてきました。しかし、御朱印は御守やお札と同じく、御本尊や御神体の分身のようなものです。ひとつひとつ丁寧に手書きで書いていただけます。スタンプラリーとは違うのでご注意ください。(小林彩奈)
御朱印帳の種類
御朱印帳には、大きく分けて「蛇腹綴じ」と「和綴じ」の2種類があります。寺社にある御朱印帳はほとんどが「蛇腹綴じ」です。御朱印を広げてみることができますし、書き面がフラットになり書きやすいです。丈夫な和紙でできていて、両面に書いていただくこともできます。しかし横に広がりやすいので、持ち運ぶ際はカバーに入れ、紐などで縛った方がよいとされています。
「和綴じ」は、中の和紙が紐で綴じられているものです。紐を緩めて取り外すことができるので、順番を入れ替えたりすることができます。霊場巡りなどの場合、御朱印に「一番礼所」「二番礼所」など書かれますが、順番を間違えて御朱印帳に書いていただいても、後から並べ替えができます。
御朱印帳の保管方法として一般的なのが、神棚・仏壇に保管することです。なければ本棚でも大丈夫です。神棚と同様、なるべく清潔な場所で、自分の頭より高い場所に置くと良いとされています。(小林彩奈)
御朱印の起源と歴史
御朱印の起源ははっきりとは分かっていませんが、日本全国66ヶ所の霊場を巡る修行者があらわれた鎌倉・室町時代頃に遡るといわれています。「六十六部」と呼ばれるこれらの修行者たちは、巡礼先の寺院でお経を納め、その見返りに「納経印」を得ていました。
江戸時代になると、巡礼者が「納経帳」を携帯し、各寺院で記帳してもらうようになります。これが後に「御朱印」と呼ばれるようになりました。
しかし、誰もが自由に旅に出ることができなかったため、御朱印が一般に広まるのは明治以降になりました。庶民が自由に旅行できるようになると、寺社参拝は旅の主要な目的となっていきます。御朱印をもらうことはそこに行ったことの証となり、コレクションする人も徐々に増えていきました。
このように、御朱印はもともと仏教をベースに始まったものですが、江戸時代以前は神と仏が一体化しているという「神仏習合」の思想が一般的だったため、お寺と神社の境目が曖昧なまま、双方に御朱印の文化が根づいていったと考えられます。(太田大翔)
宗教・宗派による違い
御朱印の考え方は、宗派や宗教によって異なる場合があります。例えば、仏教の中でも浄土真宗本願寺派や真宗大谷派は、御朱印の発行をしないことを宗派の方針にしています(例外あり)。
一方、日蓮宗や法華宗では、御朱印とは別に「御首題」を授与します。御首題とは「南無妙法蓮華経」という題目のことで、この題目をお寺の名前と一緒に書いていただけます。本来、日蓮宗・法華宗の信徒に信仰の証として書くものなので、一部では他の宗派が混在する御朱印帳に書いていただけない場合があるため注意してください。
また、長崎の﨑津集落では、世界遺産登録を記念して、2018年から2021年にかけてキリスト教、仏教、神道という3つの異なる宗教の御朱印をもらうことができました。宗教の違いを越えて、250年に及ぶ神様、仏様、キリストを拝んできた潜伏キリシタンの祈りと、恒久平和の想いが込められています。(田倉果南)
外国の御朱印
実は、海外にも御朱印があります。多くは、海を渡った日本人が故郷との縁を繋ぐ心のよりどころとしてお祀りしたことが始まりです。
ハワイのホノルルには、明治時代にやってきた日本からの労働者に布教する目的で建てられた出雲大社があります。日本人移民のうち広島県や山口県といった出雲大社の信仰圏から移住した人々が建立しました。この神社の御朱印は、ところどころ英語表記になっているのが特徴です。そのほかハワイには、金刀比羅神社、太宰府天満宮、妙法寺などもあり、いずれも御朱印を授与しています。ハワイに行った折に立ち寄ってみてはいかかでしょうか?
またハワイ以外には、台湾の高士神社(クスクスじんじゃ)で御朱印を授与しています。日本統治時代に天照大御神を祭神として建立された神社が、戦後廃社となった後に、住民からの要望を受け再興されたものです。2016年には日本人からの寄付を受けて鳥居が奉納されるなど、日本となじみ深い場所でもあるので、御朱印巡りと一緒に歴史も学んでみると、より身近に感じるかもしれません。(田倉果南)